【跡部】All′s fair in Love&War
第23章 溜息は雪と溶けて
「…あとべ…!?」
そこで漸く、私は跡部の異変に気づいた。白い頬に刺す赤み、いつもより深い呼吸。肩ではなく額に触れてみると、明らかに熱い。軽く背を揺すってみるが、少し身じろいだだけで、良い反応は返ってこない。
「うそ、熱出してる…!?」
デスクに置かれた電話機を使い、部室に内線を入れてみるも。終了から随分たった部室には誰もいないようで、応答が無い。時計を見ると、六時を回っている…下校時刻を過ぎているから、恐らく、警備員に帰らされたのだろう。
職員室にもかけて見るが同様で、おかしい、と思いながら榊監督の携帯に電話をかける。
「ふむ…今日は職員全体研修で、生憎私ももう出ている」
「そ、そうなんですか…」
すぐに応答がありほっとするも、最悪の返事に頭を抱えたくなる。引き継ぎなんかで疲れぎみの皆の顔が浮かぶ、が。樺ちゃんともう一人くらいに、戻ってきてくれるように頼むか――
「心当たりがある、連絡をしてみよう。そこで待っていなさい」
「…え、」
「跡部の携帯が鳴ったら、注意するように。では」
そう言い残し、電話を切る監督。暫く所在なく立ち尽くす。何も出来ない自分に無力感を感じ始めたその時、デスクに置かれた跡部の携帯がぶぶ、と震えた。
画面にはミカエル、の文字――執事のミカエルさんだ、と思い当たる。着信にも反応しない跡部に逡巡した後、電話に出た。
「はい、もしもし」
「そのお声は、松元様ですね。ご迷惑をお掛けしております」
「…いえ、そんな」
ミカエルさんはいつも通り落ち着いた声で、今から学校に向かってくれる事、監督に許可を貰ったから生徒会長室のある棟まで車をつける事を教えてくれる。
「とは言え、まだお時間を頂戴するかと思います。松元様、大変お手数をお掛けして申し訳ありませんが、坊っちゃまについていて頂けますか」
「も、勿論ですっ…!お待ちしてますね、宜しくお願いします!!」
電話を切り、跡部の様子を見る。相変わらず苦しそうな呼吸に狼狽え、そう言えば、と思い当たる…今いるのは、三階の端だ。車止めまで下りなくては――