【跡部】All′s fair in Love&War
第23章 溜息は雪と溶けて
そして私といえば、お正月、茉奈莉ちゃんに留学の事を告げてから。その後は、誰にもその事を伝えられていなかった。もう出立の日はすぐ、卒業式の次の日に迫っている――ぼんやりと昇降口まで歩いて、そこで思い当たって踵を返す。
向かうは生徒会長室だ。明日からもきっと自主登校になるであろう跡部に、一声掛けたって罰は当たらないだろう、と。
すっかり日が沈んだ外は暗く、今日は星もない。そう言えば、雪が降るかもしれない、と言っていた。外を眺めてみると、分厚い雲が更に辺りを暗くしているように見えた。
煌々と明かりが照らす廊下を歩く。生徒会に所属してもいないのに、もう何度も訪れたその部屋を目指す。生徒会長室は言うなれば、跡部の城だった。コートに群がる女子生徒達も弁えているのか、ここには来ない。重たい木のドアは防音性に優れ、中に入ってしまえば外の音が聞こえない程だ。その事を踏まえ、力を込めてノックして、返事を待つ。
限られた者しか入れないその部屋に、何度も入れる自分は、跡部にとってどんな存在なんだろう、なんて考えて、そしていつも途中で思考は止まっていた。
こちらをじっと見つめる目の意味は?揶揄の中に色んな感情が読み取れる、素直じゃない言葉の意味は?たまに、偶然のように触れる手の、その熱さの意味は?
でも、きっと惚れた欲目でしか無いのだろう、そうであって欲しいという願望なのだ、といつも片付けて。そしてそのまま何の決着も付けずに、私は終わらせようとしている。こんな感情に囚われ続けている自分が嫌で、逃げ出したくて――
扉の前で暫く待つも、いつもならすぐに返ってくる返事は聞こえない。もう一度、先程より強く叩いてみるが、相変わらず反応がない。もしかして入れ違いに部室にでも行ったのだろうか、と思いながら軽くノブを回す、すると、重たく見える扉は存外簡単に開いた。吃驚して中を覗いてみる、と。
「…あとべ?」
恐る恐る、机に突っ伏す跡部に近寄る。固く目を閉じる跡部の肩が上下している――寝ている?なんとも珍しい光景に思わず見蕩れる。いつも綺麗に上げられた前髪がさらり、と顔にかかって、幼く見える表情ににやけながら。
そっとしてあげたいのは山々だけれど、こんな所で寝ていても疲れは取れないだろう――肩を揺すって、勝手に入った事を謝らないと、そう思い手を伸ばす。