【跡部】All′s fair in Love&War
第23章 溜息は雪と溶けて
「あとべ、ごめんね…起きて、」
先程までより強く肩を揺する。固く閉じられた瞼がゆるり、と震える。
「…松元」
いつもより弱々しく聞こえる、少し掠れた声に、ぎゅっと胸が締め付けられる。ミカエルさんが迎えに来ることを伝えると、はぁ、と大きく息をついた。
「…すまねぇな」
「何言ってんの、大丈夫だよ!」
傍らに置かれたテニスバッグを代わりに持ち上げる――その想像以上の重さに体が揺らぐも、何とか持ちこたえる。
おい、と声がかかるも無視して行こう、と扉を開くと、先程より大きなため息と、跡部の足音を背後に感じ、部屋から出た。
少し覚束無い足取りで、私について部屋を出る跡部を確認して、扉を締める。明日も来るから施錠はいい、と言う跡部――ほんとに来るの、この体調で?そう思いながらも、反論する気にもなれず言う通りにした。
エレベーターホールは反対側の端だ。来た時より暗くなっている廊下を並んで歩く。いつも通り、真っ直ぐ前を見る瞳、しかしいつもより力が無い。私に力があったら、肩を貸すなり、樺ちゃんじゃないけどおぶるなり出来るのに、と思いながら、せめて、と少し早足で歩いて、先にエレベーターのボタンを押した。
追いついてきて、辛そうに壁に寄りかかる跡部。いつもよりエレベーターが来るのが遅く感じられ、やきもきする。
「あとべ、そっちのカバンも持つから貸して」
「アーン…?必要ねぇよ」
教科書なんかを入れた学用カバンをこちらに寄越せ、と言うも。跡部はそれを断り、その癖、目を閉じる。
「お願い、持たせて…お願いだから、」
無理やりのように、カバンの持ち手に手をかけると、跡部は薄く目を開けこちらを睨むような瞳を向けた、でも力が無いから怖くない。負けじと睨み返す、そして力をかけ、カバンを奪い取るように抱えた。
これもまた、生真面目さ故か――ずしり、とまた身体にくる重みに、足を踏みしめ直すと、漸くエレベーターの到着音が鳴った。
先に乗り込み、なんとかカバンを持ち替え空いた手で行き先ボタンを押す。開きボタンを押し、跡部を待つ。