【跡部】All′s fair in Love&War
第20章 おわりのはじまり(前編)
「むにゃ…うーん、だれ…」
「あ、あの、ごめんね突然。移動教室なの、このままじゃ…」
「わっ…守河!?起こしてくれたの、サンキュ!!マジ助かったしー!!」
ぱっと目を見開いて、そう叫ぶと。足早に教室を出ようとするから、教科書は!?と声をかける。恥ずかしそうに笑って戻ってきた彼は、そう言えば次の時間って、何処で何…?と尋ねてきた。
音楽の教科書を取り出すように言うと、彼は焦ったようにロッカーを漁り出す。入学して五日で、ここまで荷物は溢れるものなのか――
「やっべぇ、寄りによって音楽!?カントクに怒られる所だった、マジありがとー守河!」
「大丈夫、私も前の席の子に言われるまで移動教室だって忘れてたの。それより、私の名前、知ってくれてたのね」
「え!?お、おー、たまたま覚えてた」
それから彼は興奮冷めやらぬ様子で、音楽教師の榊が所属しているテニス部の顧問であること、遅刻なんてしようものなら部活出席停止になりかねない事を教えてくれた。
いつも寝ている印象だった彼の豹変ぶりに驚きつつ、喜怒哀楽の表現の激しさに好感を覚える。何より、何処か――説明も出来ないような何処かが、千花ちゃんに似ているな、と感じ、急に親近感が湧く。
「余程テニスが好きなのね」
「そー、ちょー好き!オレからテニス取っちゃったら、多分なーんも残んない」
にしし、と笑う、彼が眩しく見える。こんなに何かに打ち込んだことが自分にはあっただろうか、と問うてみるけど、何も思い浮かばない――