【跡部】All′s fair in Love&War
第20章 おわりのはじまり(前編)
入学式から、五日も経っただろうか?千花ちゃんの元気がどんどんと無くなっていくことに気付き、私は焦っていた。
二人で美術部の体験入部に通っているけれど、彼女は特に絵が好きなわけでも無いし、そこまで楽しくは無さそうで、かと言って他に興味があるものもないらしい――私の方も、美術部に満足も納得も行っていなかった。美術部には女子生徒が多い。時間が経てば彼女はきっと人気者になってしまう。また、二人、ではなくなってしまう――
そこまで考えて、自分の相変わらずの身勝手さに自嘲した。沢山の友達に囲まれてはしゃぐ、その中でも皆のことを気遣う、そんな優しい千花ちゃんの姿が好きだったのに。彼女は決して寂しい、なんて、辛い、なんて口にしない。そう、そんな、意地っ張りな所も好きなんだよね。
そこで、前の席の女子生徒から声をかけられふと我に返る。次の時間は移動だよ――そこで気づく、前席なのに、名前も覚えていない。
「ありがとう」
教科書をまだ用意していないの、と応えると、遅れないようにね、と彼女は先に行ってしまった。ふう、と息をつき、後ろのロッカーに教科書を探しに立ち上がる――
「…綺麗」
教室の一番後ろ、一番窓側の端。一番の特等席でスヤスヤと眠る男子生徒を見つけた。折しも日の一番高い時間、差し込んで来る光がキラキラと金の髪に跳ね返って落ちる、まるで絵画のよう。
――もしかして、誰かが起こさないと移動もしないの?くるり、と辺りを見回すと教室には自分と彼の二人だけ。そういえば、彼は放課後になると男子生徒に囲まれ、何だかんだと世話を焼かれて、何処かへ連れて行かれるのをよく見かけていた。
「もしもーし…移動しないと、間に合いませんよ」
近くに行って声をかけてみるも、全く意味の無い様子で、変わらず穏やかな寝息が聞こえてくる。
「もしもーし、置いていっちゃいますよ」
とんとん、と肩を叩く、これもダメ。ゆさゆさと腕をゆする、少し身動ぎをしたけどこれもダメ。ふと、机の横に立てかけられた大きなカバンに目をやる。そこに付けられたワッペンに記された名前に気付く。
「おーい芥川くんー、えーっと…ジローちゃーん」
漸く、ゆるゆると睫毛が震えた。ゆっくりと時間をかけて、瞼が持ち上がり。隠されていた瞳が、コチラを見つめる。