【跡部】All′s fair in Love&War
第19章 はじまりのおわり (後編)
「ちょっと、ジロちゃんは関係無いです!あたしが不注意だっただけで、そんなに言う事無いでしょうっ…!」
「…アーン?お前に非があることは確かだろうが、庇ってやった俺様に対してその物言いかよ、松元?」
汗に濡れた前髪をかき上げ、少し高い目線がこちらを見下ろす。獣に睨まれた小動物とはこの様な気持ちだろうか、またどきり、と痛い位に心臓が跳ねた。
「ジロー、松元もマネージャー志望だと言っていたな」
「おー、守河の推薦で…」
「こんな無礼な奴に、格式ある我が氷帝テニス部のマネージャーが務まると思うかよ、アーン?」
「…黙って聞いてたら、随分よねっ…突然相手のことをお前呼ばわりする奴は、礼儀を知ってるわけ!?」
彼の目がこちらをゆっくりと向く。心の中まで見透かされそうな大きな瞳に、見蕩れそうになるが、それより悔しさが勝って睨みあげる。ずっと感じていた嫉妬のようなものも、今の苛立ちも、全てぶつけてしまいたい、でも、助けられたのは不覚ながら事実だ――
「助けてくれたのは有難う!あと、あたしの代わりに危ない目に合わせてごめんなさい!お礼とお詫びが遅くなったのも、大変失礼しましたっ!!」
一気にまとめて言ってやると、跡部は驚いたようにきょとん、とした表情を浮かべている。何かおかしいことを言ったかな、と今更ながら不安になる私をよそに、その形の良い口が歪み、笑みの形を作った。ただし、決して良くはない、笑顔。そんな表情にすら、またどきり、と身体に悪そうな動悸が走る。
「――おい、松元。入部届を書いて帰りな」
「…は!?」
突然の言葉に驚くも、跡部は当然だ、とでも言わんばかりに笑みを深めるだけで、何も言わない。
「あたし、入部するなんて一言もっ…」
「アーン?俺様への恩に報いたいだろう?」
それを言われると弱い――ぐっと押し黙った私に、跡部はくくっ、とくぐもった笑い声を残し去っていく、その後ろ姿を見つめる。
――なんなの、アイツ。今まで出会った事が無いくらい、嫌な奴っ…!!
ただ、その後また何事も無かったように打ち合いを再開した跡部に、既視感を覚えた。何処かで会っていただろうか、と考えるけれど、軽やかに、舞い踊るように優雅な動きに、反して力強い球に、目を、心を奪われて、思考が止まる――