【跡部】All′s fair in Love&War
第19章 はじまりのおわり (後編)
「そーなの、千花ちゃん!私、テニス部のマネージャーになる事にしたんだぁ」
「は!?え、美術部は…!!?」
「んー、まだ入部するともなんとも言ってないし、大丈夫かなぁって」
思わず頭を抱える。茉奈莉ちゃんが言い出したら聞かないのは知ってる、けど今回はいつにも増して脈絡が無い。一緒に居なかったから仕方が無いとはいえ、経緯も全く分からない――
「でね、千花ちゃんの入部届も貰ってあるの」
「はぁあぁ!!?な、いきなり、どうして、」
「だって、千花ちゃんが一緒じゃないと楽しく無いでしょ?」
当たり前のように言ってのける茉奈莉ちゃん。それに、この前テニスに興味ありげだったじゃない――と畳みかけられ、しどろもどろになる。あれはテニス、と言うより雰囲気、というか――考えがまとまらなくて、言葉に出せずうぅ、と唸ると、茉奈莉ちゃんはいつも通りにっこりと微笑んだ。
「きっと楽しいよ、ジロちゃんもイイコだし!」
「ジロ、ちゃん?」
「あ、おれおれー!」
金髪の彼――ジロちゃん、は屈託なくニカッと笑う。イイコなのは間違いないだろう、でも、だからと言って――
「――おい、松元っっ!!!」
その時突然大声で名前を呼ばれ、驚いて振り返る。先程までコートの中でボールを追いかけていた男子生徒が、こちらに背を向けて目の前に立ちはだかっていた。そしてガツン、と衝撃音。彼が構えたラケットで受け止めたらしいテニスボールがぽんぽん、と小気味よい音を立てて地面に弾む。
あれ、この人がいないと、あたしに当たってた――目の前の背中を見つめる。
「コートに入るなら、ボールに背を向けるんじゃねぇ!」
間髪入れずに凄い剣幕で怒鳴る彼に圧倒され、彼の顔をじっと見る。その顔には見覚えがあった。同じクラスの。英語が得意な。イギリス帰りの。いつも澄ましている跡部からは想像できない、必死めいた顔と声。どきどきと、遅れて早鐘を打ち出す心臓。恐怖からか、それとも――
「ジロー!お前がいながら何してやがる!」
「ご、ごめんよ跡部」
気圧されたのか、少し涙声になるジロちゃん。茉奈莉ちゃんはそんな私達の様子を見てか、敵意を隠すことなく、跡部をじっと睨みつけている。