【跡部】All′s fair in Love&War
第2章 ジェニーはご機嫌ななめ
「ひっ…きゃあぁああ!!?…って、ジロちゃん!」
突然背後から肩を叩かれ、思わず悲鳴を上げたが、すぐに見知った顔に気づく。また部室でサボっていたらしい、寝起きで髪が乱れたジロちゃんが立っていた。
「もー、茉奈莉ちゃんがさっき探してたよ?」
「マジ?じゃー早く行かなきゃ」
茉奈莉ちゃんの名前を聞くと急にソワソワし出すジロちゃん。とてもわかりやすい。二人共から聞いたことはないけれど、きっと両思いなんだろう。付き合ってはいないのかな?でもいつも一緒にいるし、同じような物なのかな――いいなぁ、
「ん、松元、なんかあった?」
小さく呟いた声はどうやら聞こえてしまっていたらしい。ジロちゃんはあたしの顔をじっと見て、頬をぐいっと強く拭ってくれた。
「泣いてたんじゃん」
「あー…ちょっとだけね」
簡単に先程までの状況を説明する。ジロちゃんはふんふん、と黙って聞いてはくれたけど、次第に呆れたような表情を浮かべる。
「またそんなことでケンカってさ、跡部も松元も飽きないのー?」
「飽きるも何も、あいつが吹っ掛けてくるんだもん!」
「俺は好きな子にはもっと素直に接したいしー、そこんとこよくわかんないんだよなー」
「すす、好きな子って!あたしは別にそんなんじゃない!」
あたしが照れ混じりに叫ぶように発した言葉をはいはい、と軽く流される。ムキになって否定を続けるあたしをケラケラと笑っていたジロちゃんは、突然すっと真剣な表情を浮かべた。
「そんなんじゃなくてもなんでもさ、このままじゃ嫌でしょ」
「うぅ…はい」
「ん、素直で宜しい。だったらさ――」
――秘密の呪文、教えたげるよ。
秘密の呪文?あたしがそう聞き返すと、ジロちゃんは、茉奈莉ちゃんの大好きだと言ういつもの笑顔を浮かべていた。