【跡部】All′s fair in Love&War
第2章 ジェニーはご機嫌ななめ
「なぁ、なんでアカンのー?」
「…アーン?んだよ、忍足」
立ち尽くす跡部の肩にぐにゃり、と凭れ掛かる。自分の関西弁は関東の人間には軽薄に聞こえるようだけど、場の空気を変えるには持ってこいだなぁ、と常々思っている。暑苦しい、触んな気持ち悪い、と辛辣な言葉と冷たい目で振り払われるが――なんなん、冷たいなぁ!と笑うとさっきまで跡部が纏っていた空気が少し和らいだように感じる。
「跡部もちゃんと理由まで言うたらえぇやん?松元独りで出かけたら危ないやろーとか、暑いのにわざわざチャリンコで行かんでも!とか」
――荷物持ちなら俺がしたるやん!とか?
少し潜めた声で核心に触れてやると、さっと頬に赤みが刺す。跡部らしからぬ年相応の反応、だがしかしそれも一瞬、興味無さげな表情に戻った。
「俺様が買い出しになんて行くかよ、忍足」
「なら、俺が行こかー?」
俺の問いには答えずあくまでポーカーフェイスを崩さない。おーおー、素直じゃないこと――本当は走って追いかけたいくせに、と大好きな恋愛映画より余程面白い二人のやり取りを思い出しながら、さてどうやって跡部をけしかけようかと考える。
すると微かに部室の方から、松元の悲鳴のような声が聞こえてきた。向こうから呼んでくれているようだ、と跡部を見やると、目が合う。俺の好奇の目を捉えたのか、跡部はわざとらしくため息をつくと、部室に向かって早足で歩き出した。