【跡部】All′s fair in Love&War
第2章 ジェニーはご機嫌ななめ
「も、有り得ない…」
涙だか汗だか、色んな液体が顔面から垂れてくるのをぐっと拭った。
あたしはそんなに役立たず?ただの買い出しも任せられないような?
たかが買い出しごときで、ムキになるなんて――頭のどこかで冷静な自分がそう言っているが、もうモヤモヤは晴れそうになく、どんどんネガティブが侵食していく。
「茉奈莉ちゃんみたいにテキパキ動けないし、」
思わず独り言が零れる。口に出したら止まらなくなるのに、頭に浮かんだ言葉は勝手に唇を離れていく。
「あの子みたいに素直にもなれない」
隣のクラスのあの子は、跡部に好きだ、と想いを告げていた。通りがかりに聞こえてしまったから、バレないようにすぐに逃げたけど、次に会ったその子は泣き腫らした目でこっちを睨んでいたから、結果は想像がつく。そんなに睨まなくても、あたしと跡部はただの部活仲間なんですよ――
――その関係から抜け出す勇気もないから、せめて部活では役に立ちたいと思っているのに。
自分は素直になんかなれない、増してや好意を示すなんて――名も知らない彼女を尊敬してしまう、彼女はそんな事望んでいないだろうけれど。彼女が認めて欲しかったのはあたしなんかじゃなく、跡部だけなのだ。その気持ちも痛いほど分かる――ぐず、と鼻をすすり、ひとまず出かけるために制服に着替えようとロッカーに手をかけた時。
「お、松元だぁ」
「ひっ…きゃあぁああ!!?」
後ろからとん、と肩をたたかれ、珍しく甲高い悲鳴を上げてしまった。