【跡部】All′s fair in Love&War
第16章 夏の魔物に連れ去られ(後編)
うじうじと悩みながらもなんとか埋めた原稿用紙を、読み返す気にもなれずペンを片付ける。そして書き上げた思いを邪険にすることも出来ず、丁寧にファイルに入れてからカバンにしまった。
もう、自室に篭ってからどれ位経っただろう――皆はもう解散したのかな?防音のしっかりしたこの屋敷では、扉を閉めてしまえば外の音は殆ど聞こえない。もう一度、皆のいる食堂に戻ってみようか?そう思いながらスマホを取ると、跡部からのメッセージがあるのに気付いた――課題が終わったら、連絡しろ。
明日はまた朝からテニスをして、少し海で泳いで、昼過ぎにはもう帰路につかないといけない。もう一度皆で集まって、少し位馬鹿騒ぎするのもいいよね。そう思いながら、終わったよ、の一言とジト目の猫のスタンプを送る。なんだか跡部に似てるな、なんて思って取ったんだっけ――そんな事を考えていると、コンコン、とノックの音。
――もしかして、
跡部?途端にどきどきしながら、扉をそっと開く――
「桜木様、失礼致します」
「あ、はい?」
「失礼致します」
「え、え?」
「失礼致します」
「あの、ちょっと、え?」
次々に入ってくるお手伝いさん、その数六人。驚きすぎて訳もわからずアタマにハテナを飛ばすあたしに向かい、六人共がにっこりと微笑んだ。