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【跡部】All′s fair in Love&War

第16章 夏の魔物に連れ去られ(後編)





「あー、脚いってぇ…くそくそあとべー…」
「何もさー、こんな時に宿題しなくてもいいんじゃないのー…」
「うっせえぞ、口でなく手を動かしな…アーン?」


みっちりとテニス漬けの一日も終わり、さっと汗を流し皆で夕食を取った後、無情にも跡部から始まりを告げられた課題タイム。自力では宿題を終わらせられそうにない、がっくんやジロちゃんは言わずもがな。教科の好き嫌いが激しい宍戸や忍足に取っても救済措置の筈だが、全員が疲労困憊で文句たらたらだ。

勉強の得意な跡部と茉奈莉ちゃんは、当然のように教える側。あたしは勿論教えを乞う側だが、今年は奇跡的に合宿への期待感から殆どの宿題を終え、残す所あと一つまで来ていた。が、その一つが曲者だった――


「跡部、茉奈莉ちゃん。あたし、自分の部屋で課題やってくるね」
「あ?…あぁ、わかった」
「頑張ってー、千花ちゃんっ」




ひらひらと手を振って自室に戻る。備え付けられた机に向かい、広げたのは英字用の原稿用紙。英語で将来の展望、夢、目標を書けというシンプルな課題。なのに、今のあたしには酷く重たい難題だった。

将来なんて遠い話の筈だったのに、この合宿が終われば新学期が始まって、選択科目ごとのクラスに振るい分けられるのだ。氷帝では殆どの生徒がそのまま高校に進む分、学習の進度が速い。従って進路指導も早く行われる。早く目標が決まるほど、学則の「文武両道」も達成できる――とは、進路指導の担当でもある榊監督のお言葉だ。


昔から英語が好きで、興味があって、文系のクラスを取ることに迷いはなかった。そこには帰国子女で英語ペラペラ、更にフランス語やギリシャ語も齧っている跡部も所属していて、来年も同じクラスになることは確定だ。そしてあたしはどれだけ勉強しても、英語の成績で跡部を追い越すことは出来ていない。



「文武両道って、まさにアイツのための言葉よねー…」



近付けば近付くほど、それが天賦の才なんかじゃなくて、努力の賜物だと知らされる。そして自分の小ささに気付かされるのだ。考えてみれば、氷帝にいるのは茉奈莉ちゃんに誘われたから。テニス部にいるのは、跡部に入らされたから。

今の環境に満足こそすれど、自分で選び掴み取ったものではないのだ――


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