【跡部】All′s fair in Love&War
第16章 夏の魔物に連れ去られ(後編)
「ほらほらどーした、膝がヘタってんぞ日吉!」
「…下克上だっ…!!」
ヒヨをイジメ倒して何とも凶悪な笑みを浮かべている跡部を、日陰から見つめる。まぁ、楽しそうにイキイキしちゃって。
合宿二日目の今日は朝からみっちり練習だ。まだ日も上りきってないのに、マネージャー二人は日陰から出るな、とキツく言い渡され、あたしはぼーっと練習を眺めている。
昨日の跡部と宍戸との諍いは無かったかのように、皆が普通、いつも通りだった。ちょたもヒヨも初めは戸惑っていたようだったけど、次第に安心した様子で練習に打ち込んでいる。本音から話し合ったから、きっと凝りも残ってないんだよね。はっきりと清々しい関係は憧れる。
対してあたしは、と言うと。昨日繋がれた手の熱が残っているようで、女々しく掌を開いたり閉じたり眺めてみたり、茉奈莉ちゃんには怪我したのか、と心配される始末。
「ジロちゃーん!そこだー!いけーっ!忍足なんか敵じゃないわよー!」
「おー!任せろー」
「いや、酷いなジローも守河も!?」
茉奈莉ちゃんはいつも通り、声を張り上げてジロちゃんを応援している。非公式の練習、とはつまり、勝敗も関係なくテニスが出来るということ。皆心無しかいつもよりイキイキとして、楽しそうだ。
声援を嬉しそうに受け止めるジロちゃん。二人の関係は、いつも見ていて微笑ましいし、羨ましい。あたしは、と言えば昨日だって跡部と二人きりだから良かったものの、皆の前なら思い切り手を振り払っていただろう――
思わず遠くを見つめているようなあたしを、心配そうに見ている目が幾つもある事に気付き、苦笑する。部長様がコチラに来る前に、ドリンクでも用意しよう。自分が出来ることをしないと、皆の隣に胸を張って並べない――それが跡部の隣なら、尚更だ。