• テキストサイズ

【文スト】永久に枯れない花の色は

第8章 彼の見えざる手



「薄雪先に公園の入り口に行ってて」

「何を……するお心算ですか?」

薄雪がピクッと反応する。

「『彼』に話があるだけだよ」


ヘラッと笑って話すと薄雪の頭をポンと撫でる。
だが、薄雪は気付いていた。


「…………嫌、と云ったら?」


眉間に皺を寄せて太宰を見つめる。
その眼は太宰の瞳の中に黒の何かが蠢くのを捉えて、離さない。


「喧嘩でもするかい?薄雪に勝算があるとは思えないけどねぇ」

フッと笑って云う太宰に、薄雪は俯いて首を横に振った。


「………いえ」


そう云うと一礼して、指示されるがままに立ち去っていく。
それをやれやれ、と云いながら息をはいて見送ると太宰は視線を○○に戻した。

ビクッと小さく肩を上げる。


「君が何を勘違いしているかは知らないけど私達は探偵社の一員で、薄雪は今件が初仕事なんだよ」

「………初仕事……一体、何の…」

「『当たり屋の逮捕』だよ。一部始終観てたでしょ」

「あ……!」

そうだ。
抑も『当たり屋』の事を教えたのは何を隠そう、目の前の人間なのだから。


「可笑しいと思わなかったのかい?薄雪が大金を持ち歩いていたことも、薄雪の電話でもっと怖そうな人間が駆け付けたことも、警察の現れたタイミングも」

「!」

指摘されてその通りだと納得する○○。
太宰は続ける―――冷ややかな目を向けながら。



「それなのに君は、薄雪に対してあんな態度をとった―――まあ、所詮は軽はずみに好意。その程度だろうけどね」



「!?」


ハッとした。

そうだ。
あんなに脅威から庇ってくれていた筈の女性を、怯えの対象にしたのだ。

「僕は―…」

何てことを。
そう続ける積もりだった言葉を太宰が遮った。


「でも、薄雪は嘘は付いていない」

「………は?」


反省する気持ちが一瞬で引っ込む。


「薄雪は間違いなくマフィアの人間だ」

「!?」

○○の顔が引きつった。
しかし、脳は正常に動き続けていた。
故に、直ぐに太宰に言い返す。


「何故です!?薄雪さんは何故マフィ「軽々しく名前呼ぶの止めてくれない?」―――!」


空気が、凍った。

/ 95ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp