第2章 何もない日常
「太宰さん。助けて下さって有難うございます」
「ふふっ。このくらいお安いご用だよ」
薄雪に向かってニッコリ笑う。
「そうですか。それでは彼等も去ったことですし、そろそろ離していただいても宜しいでしょうか?」
「んー…」
「……何故そこで悩む必要があるんですか」
「秘密」
はあ、と溜め息を着く薄雪。それとは正反対に太宰は満足そうだ。
「太宰も一緒に来るかい?」
「与謝野さん!?」
「そうさせて頂こうかなー」
「太宰さんも!?」
薄雪が驚きの声を上げる。
「虫除けだと思えばいいじャないか」
「そうですわね。頼もしいですわ」
「「……。」」
言葉にならない何かが2人に沸き上がる。
そして、
「まあいいや。薄雪」
「はい?」
漸く解放し、代わりに手を差し出す太宰。
「……。」
その意図を正確に汲み取り、少し躊躇ってから薄雪はその手に自信の指を絡めた。
その様子に小さく「まぁ!」と云うナオミの声と、「いいですね!」と羨ましがる春野の声は聴こえなかったことにした薄雪だった――。
その後、荷物持ちの2人も合流し、昼食を済ませてまた買い物。
夕刻を過ぎる頃に帰宅した。
各々、家に帰った―――筈だったが。
「何故、私の部屋に居るんですか?」
「ん?」
何故か自分の部屋で寛いでいる太宰に呆れ眼を寄越す。
「助けたお礼として夕飯をご馳走になろうと思ってね」
「……構いませんが大したものは作れませんからね」
追い返そうとしたところで無駄なことは解っている薄雪は深い溜め息を着いて、台所に向かった。
「「頂きます」」
豚のしょうが焼きに、白和え。みそ汁、白ご飯といった食事がテーブルに並んだため食べ始める。
「……。」
ジッ
太宰が口に入れるのを見続ける薄雪。
「何か入ってるの?これ」
「え。同じものを食べてるのに訊きますか?」
何なら交換します、と云い出す薄雪に溜め息を着いた。
「そんなに見られたら食べにくい」
「あ……気付きませんでした……済みません」
そう云うと自分の箸を漸く動かし始める。
「……。」
太宰は解っているのだ。
何故、薄雪が見詰めていたのかも。
欲しい言葉も――。