第2章 何もない日常
解っているのに云わないのは―――
「楽しかったかい?」
「え?」
「今日だよ。買い物を……と云うより遠くまで外出したのが久しぶりだったのだろう?」
「あ……ああ。そうですね。楽しかったです。一般人と云うものはあんな風にお喋りしながら彼是決めるんだと云うことを学びました」
「そう」
聴きながらも手は止めない。
「でも当分は遠慮したいです」
「へぇー。何で?楽しかったんでしょ?」
「そうですけど……賑やかすぎるのも苦手です。後が淋しくなってしまうから」
「……。」
無自覚で云っているな、うん。
太宰は矢張り呆れた顔をして溜め息を着いた。
「あの……矢張り口に合いませんか……?」
先刻からずっと訊きたかった言葉を漸く掛ける。
「普通だよ」
「普通、ですか」
薄雪がオウムのように太宰の言葉を繰り返す。
そして、
「普通なら善かったです」
笑顔で云った。
彼女は未だ知らないことが多いのだ。
マフィアで生まれ、マフィアで育った
光を知らない少女。
普通を知らない少女なのだ。
普通の経験すら、楽しいと感じる。
太宰が其れを危惧していることなど、何も考えてはいないのだろう。
「まあ、未だ良いかな」
「何がです?」
「何でもないよ」
ふふっと笑って食事する。
「?」
薄雪は疑問に思いながらもそれ以上、聞き返すことはせずに食事を再開したのであった―――。