第8章 彼の見えざる手
「来てくれるそうですよ」
「おい、金の用意を頼んでねぇーじゃねーか!」
派手な外套の男が薄雪に向かって来ようとしたのを黒尽く目の男が止めた。
「金持ちのお兄様だ。嬢ちゃんより持ってるってことだろ、なあ?」
「その通りです。いま連絡した兄様は常に大金を持ってますから来さえすれば事足ります」
薄雪は頷いて云った。
そして、続ける。
「聴いていたと思いますが―――5分ですよ」
「「「「?」」」」
妙な響きを持つ言葉。
男達が。○○が。
一瞬、シンとなった。
「貴方達が、ここ最近、この近辺に重大な被害をもたらしている当たり屋ですね?」
「ハッ、だったら何だって云うんだ」
薄雪の言葉を受けて、派手な外套を纏った男の内の一人が前に出てきた。
「先刻はサツに怯えてる振りをしたけどなァ、俺達にとっちゃあ市警なんざ何の驚異でも無ェんだよ!」
「!?」
ケタケタと男達が笑い始める。
○○は絶望した。
―――薄雪は警察に…或いは警察官の知人にでも電話を掛けていたと思っていたのだ。
でなければ、薄雪のこの落ち着き具合の説明が
立たないから。
「貴方は確か、国会議員△△氏の長男ですよね。父親に頼んで圧力でも掛けているのですか?」
薄雪の言葉に男は一瞬驚き、直ぐにニヤリと笑った。
「御名答だぁ!頭良いな、嬢ちゃん」
「それほどでも」
薄雪はニコッと笑って返す。
「そして、兄貴達はここいらでモノを云わせてる□□だからなぁ!隙は全く無ェ!」
「………。」
□□だって!?
○○を更なる絶望へと駆り立てた□□とは、この辺で活動しているマフィアだった。
ガタガタと震えていた脚がついに身体を支える力を失う。
「○○さん、大丈夫ですか?」
大丈夫な訳、ない。
何故だろうか。
何故、目の前の女性はこうも淡々としているのだろうか―――
回らない頭でそんなことを考える。
――――答えは、直ぐに判った。
薄雪は男達から庇うように○○の前に立って、口を開いた。
「1つ、伺っても?」
薄雪の発言を聞いて、男達が笑うのを止めて一斉に注目する。