第8章 彼の見えざる手
「払えないんだったら身体で払って貰っても良いぜ?」
ジリジリと近付いてくる男達。
しかし、薄雪は何も反応することなく財布からお金を取り出した。
「はい10万円」
「―――は?」
渡された一万円札の束を見ながらポカンとする男。
「では失礼します」
薄雪は○○の手を引いて、その場を去ろうとした。
「いや、一寸待て!」
そんな薄雪の前に、別の黒尽く目の男が立ちはだかる。
淡々と応じていた薄雪の顔が、流石に曇った。
「………未だ何か?」
うんざりした声で。しかし、怯むことなく男に向かって云い放つ。
「1人につき、10万円だ」
「……。」
薄雪は呆れた顔で息を吐くと再び財布から札束を取り出して男に押し付けた。
この行動を見て稼げると思ったのか。
最初に札束を受け取った男が我に返り、薄雪に云い放った。
「『俺達』1人につき、1人10万。残り200万円だ」
「なんだって!?」
「……。」
流石の○○も反論する意思を見せた。
が、男達が懐からナイフを取り出すのを見て、薄雪に隠れてしまう。
「情けないねぇー兄ちゃん。嬢ちゃん、俺に乗り換えたらどうだ?」
ニヤニヤしながら云う男を無表情で見返す薄雪。
そして、云った。
「今、手持ちでそれしか在りませんから持ってくるよう連絡しても構いませんか?」
「「「!」」」」
当たりだ!この女、金持ちのお嬢様だ!
男達が一気に興奮する。
「そう云ってサツに連絡されちゃ敵わないからな」
「そんなことしませんよ」
「連絡を許可する分、追加で100万だ」
「―――解りました」
薄雪が男達に見せながら電話を掛ける。
押したボタンが『110』で無いことだけを確認すると男達はニヤニヤしながら薄雪を見た。
「兄様?先日振りです。――え?あはは。その節は有難うございました」
こんな状況なのに笑いながら話をする薄雪に驚いている○○。
「ところで兄様は今、どちらにいらっしゃいますか?――――――あ、今××公園に居るんですが其処からなら車で5分と掛かりませんよね?え?何でって?取り合えず『来て下さい、兄様』」
ピッ。
薄雪が電話を仕舞った。