第8章 彼の見えざる手
そんな薄雪の様子に男達はニタリと笑う。
そして、黒尽く目の男が口を開いた。
「いや、なに。此の公園のこの道は俺達の所有でさあ」
「……。」
薄雪は黙ったまま男達を見ている。
間違いない……彼奴等が噂の当り屋だっ…!
そう判った瞬間から○○の身体が小刻みに震え出した。
想像していた人間なんかよりも質の悪いモノだったからだろう。
当然と云えば当然だ。
柄の悪い、「不良」と呼ばれる連中は見たことがあっても、本物の「悪人」に遭ったことなど、普通の学生に居る事の方が少ない筈だから。
「此処を無事に通りたけりゃ通行料が要るんだよ」
派手な外套を纏った男が薄雪に手を伸ばしながら云った。
パシッ‼
「「!?」」
なんの遠慮もなくその手を払った薄雪の行動に、他の男達も○○も驚愕の表情を浮かべる。
「この女ァ…っ!」
「話は解りました。貴方達の頭が足りていないことも」
「あ゙ぁ!?」
淡々と云った薄雪の言葉と態度に男達の怒りが膨れ上がっていく。
「公園とは公衆の為に存在するものであって私有地ではありません。従って、貴方達に通行料なるものを支払わなければいけないのなら其れなりの手続きを以て然りです。しかし、それがなされていないとなれば私に支払い義務など有りません」
それでは。
そう云うと薄雪は一礼してその場を去ろうとした。
が、勿論出来なかった。
「おいおい、ちょっと待とうや嬢ちゃん」
「未だ何かあるんですか?」
そう云って振り返り様に突き付けられたのは銀色に輝くモノ―――
「ひっ…!」
「………。」
怯える○○をよそに
その切っ先から目を背けることなく薄雪は相手を見つめる。
「金で解決するなら良いと思わないか?大事だろ?命」
薄雪の喉元に切っ先を当てて、男は勝ち誇った顔で云った。
「やれやれ」
薄雪は溜め息を着くと男の手を押し退けてバッグから財布を取り出した。
「幾らです?」
その質問を聞いて、ナイフを突き付けた男も取り巻きもニヤリと笑う。
「10万だ」
「じゅっ………10万だって!?」
○○が思わず叫ぶも男達に睨まれて直ぐに震え出す。