第8章 彼の見えざる手
池を見ながら歩くことが出来る公園の道を2人で会話しながら進んでいく。
「それにしても随分な趣味のお兄さんですね」
「ふふっ。変わったヒトでしょう?」
「はい……あ、いえっ」
○○は即答したが、慌てて取り繕う。
そんな姿を見て薄雪はクスクス笑っていた。
「気を遣わなくて良いですよ。兄様の知り合いに云わせれば周知の事実ですから」
「……そうなんですね」
ははっと苦笑して返す。
「そういえば○○さんはバイトお休………」
「!?」
お休みですか?
そう紡ぐ予定だった口を閉ざして、薄雪はピタリと立ち止まった。
異変に気づき、○○も停止する。
薄雪達の進行を妨げるように4人の男達が立ちはだかったのだ。
「何か?」
「何か?だって。可愛いねぇー」
体格の良い男がニヤニヤしながら口を開いた。
薄雪は小馬鹿にしているとしか取れないその言動に反応することなく、淡々と。
「用がないなら通行の邪魔ですので少しずれて頂いても?」
何時もの調子で男達に云った。
○○はそんな薄雪の腕を掴んで男達の立つ方向と反対の―――今来た道を引き返そうとした。
「○○さん?」
「薄雪さん、行こう」
『この辺りは最近、太刀の悪い『当たり屋』が彷徨いているみたいでね。被害者も被害額も相当なものになっているから』
先刻会った、
薄雪の兄の言葉が脳内を谺する。
一刻も早く此の場を離れなければ。
その思いとともに踵を返して―――絶望した。
「!?」
「よォ。兄チャン。随分可愛い彼女を連れてるねェ」
「………。」
挟まれていたのだ。
此方は目の前に立ち塞がる連中と違って黒いスーツを身に纏った男が2人と、派手な外套を羽織っている男が5人。
全部で11人の人間が2人を囲んでいる。
此の状況に○○は恐怖のせいか。
顔を蒼くして、薄雪の腕を掴んでいた手を離した。
しかし、
「はぁ……」
薄雪も――……とはいかない。
「こんなに大勢で本当に何の用です?」
それでも流石の薄雪も、うんざりしているのか態とらしく溜め息を着いて男達に良い放った。