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【文スト】永久に枯れない花の色は

第8章 彼の見えざる手


「あのっ……それじゃあ薄雪さんっ!」

「はい。何でしょう」

「薄雪さんは此方で何をされ………」

会話を繋げるべく、そう話し掛けたものの。
薄雪の手に在るものを見て、思わず言葉が尻すぼみになる。

「天気が良いから読書を。と、云っても此れは兄様の愛読書だから私には難しい内容ですけど」

苦笑して答える姿も可愛い。
などと思いながらも先刻から○○の中で引っ掛かっていた単語が存在を示すかのように脳内を反芻する。


「あの…兄様って……」

「?この間、書店でお会いしたことがあるかと思いますが私より長身で、包帯を彼方此方に巻いている人ですよ」

「……。」


どの人物のことを指しているのかは判っていた。
先刻もその男に会ったのだから。
訊きたいことはそうではないのだが……如何すれば詳しく訊けるのだろうか。

そんな考えがグルグルと頭を駆け巡っているせいで○○は黙り込んだ。


「私は早くに身内全員を亡くしてしまったから兄様が代わりをして下さってるんです」

「えっ……!」


話の内容にも驚いたが、今まさに欲しい答えを述べてくれた薄雪を驚いた顔で見る。
そんな○○を見て、薄雪はクスッと笑った。
そして、手に持っていた本をバッグに仕舞うと立ち上がった。

「あの……どちらに……?」

もしかしたら云いたくないことを知りたいと顔に出してしまったが故に答えてくれたのだろうか。
友人たちから「顔に出やすい」と云われたばかりだと云うのに。
気を悪くしてしまったのだろうか、と。
その考えが今度は頭を駆け巡り出した。

「そろそろ陽が暮れるので帰宅しようかと。○○さんはどちらの方角です?」

「!?」

違った!
脳内が一瞬にしてクリアになる。

そして、慎重に。
薄雪が今から進むだろう方向を予測して、指をさしながら答えた。

「一緒ですね」

「!」

飛び跳ねそうになる衝動を必死に抑えて○○は一礼した。

「お供しても宜しいでしょうか!?」


薄雪は一瞬、ポカンとした顔をして。
直ぐにクスッと笑うと「ええ」と返事して歩き出したのだった。

そんな2人を見てコソコソと話す男達に○○は気付くことなく薄雪の隣に駆け寄る。



間もなく陽が暮れる。

何時の間にか辺りに人は居なくなっていた―――。
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