第8章 彼の見えざる手
やっと放課後になった。
僕は今、朝とは正反対の気持ちで通学路を歩いていた。落ち込んでいるのだ。
理由は唯、1つ。
「今日バイト休みだった……」
もしかしたら今日も会えたかもしれないのに。
そう思うと足取りは必然と重いものになった。
はぁー。
溜め息を着きながら下ばかりを向いて歩いていたせいで『ポフッ』と何かにぶつかってしまった。
「ん?」
「あっ…す…済みません!!」
ぶつかったのはモノは人だった。
後ろから突然ぶつかられた人は何事かと振り返る…当然だけど。
僕は隙かさず深々と頭を下げて謝った。
「そんなに謝らなくて良いよ。頭を上げ給え」
ふふっと笑いながらそう云ってくれたのは男性のようだ。
あれ?どっかで聞いた声の様な―――………
「本当に済みませんでした。一寸考え事をしてて……って貴方は……」
矢っ張り間違いなかった。
「ああ。君はあの書店の」
「はい。えっと…白沢さんのお兄さんですよね?」
この間、薄雪さんが「兄様」と呼んでいた人だった。
「ふふっ。兄かと問われれば違うのだけどね。血の繋がりは一切無いし」
「えっ!?」
兄じゃ…無い!?
僕の視界が一瞬で暗くなった。
あんなに親しそうにしていた。
でも兄じゃないとすれば………
「そんな事よりも歩きながらの考え事は危ないから止めた方が良い」
「あ………はい。」
貴方のせいでたった今、悩み事が増えたと云うのに。
などと勿論、云える筈もなく。
でも、彼は未だ云いたいことがあるようで僕の方を見ていた。
「ぶつかったのが私だったから良かったものの他の人だったら危なかったかもしれない」
「え?」
何?自分が如何に善人か自慢してるのか?この人。
「この辺りは最近、太刀の悪い『当たり屋』が彷徨いているみたいでね。被害者も被害額も相当なものになっているから」
「あ………そうだったんですね……有難うございます。気を付けます……」
失礼なことを思ってすみません。
僕は心の中で、謝罪した。