第8章 彼の見えざる手
翌日―――
「はあー………今日は昨日よりも暇だ」
溜め息つきながら本棚の整理をする。
昨日は彼女――――薄雪さんに逢えたから良かったけど幸運ってものはそう何度も続くもんじゃ無い。
続くもんじゃ―――………
「太宰さんは大丈夫ですの?」
「何やら調子はあまり良さそうではありませんが大丈夫ですよ」
薄雪さん!
スーパー併設の書店で良かった!
此処でバイトをしてて良かった!!
それに一緒に歩いている人って……!
「た…谷崎さん!」
僕の声で2人が足を止めた。
「あら、○○君」
クラスメイトの谷崎さんと知り合いなんて
僕はなんて「ついて」るんだ!
然し、困った!
勢いで呼び止めたものの会話がっ!
「ナオミさんのご学友なんですね」
「クラスメイトの○○君です。ご存知なんですか?」
「そこの書店の店員の方で2、3度お会いしたことがあります」
「ああ、そうだったんですね」
目の前で繰り広げられる会話に口を挟むことが出来ない。
でも、何か話さなければ…!
「えっと…谷崎さんと知り合い?」
「兄様の仕事先の事務員をされてますの」
「白沢と云います」
礼儀正しく一礼しながら名前を名乗る姿も美しい…!
一瞬見蕩れていた僕はハッとして、直ぐに名乗った。
その後、ありふれた挨拶をして2人は去っていった。
去り際に「お仕事頑張って下さい」と云われた声が今でも頭の中を駆け巡っている。
神様有難う!
こんな近くに彼女との接点があったなんて!
明日は何時もよりも少し早めに学校に行こう。
そして谷崎さんに彼女の事を聞くんだ!
これからの事を素早く決めて
僕は彼女の言葉通りに仕事に集中することにした。