第7章 戦争の残火
そして、ハッと。
「薄雪さん!ナオミはっ!」
谷崎が、一番に我に返った。
「無事ですよ。銀ちゃん達と一足先に安全な場所まで逃げている頃で「マフィアと一緒なのか!?」」
薄雪の言葉を遮って、谷崎は声を荒げた。
そんな谷崎を見て、苦笑する。
「心配せずとも大丈夫ですよ」
「何故、そんなことが云えるんです!?ナオミは戦えないのに、若しマフィアが手のひらを返したらっ…!」
谷崎の主張を黙って聞いている薄雪。
―――そんな薄雪の背後で影が蠢いた。
「白沢!」
「薄雪さん!」
ジャキッ
「!」
「「……。」」
太宰の正面。
薄雪は手を伸ばせば触れられる位置まで移動した脚を、止めた。
「未だ居ましたか」
自身に銃を突き付けた人物を確かめながら。
薄雪は溜め息混じりに呟いた。
「くっくっくっ……相手は組合を壊滅に追いやった組織だからな。捕虜を使った脅迫の失敗を見越した作戦が既に発動していたのだよ」
自慢気に話す、体格の良い男。
耳には通信機のようなものを装着している。
その後ろにも男が数人。
男は、薄雪に銃を突き付けたまま谷崎の方を見た。
「君の推理は素晴らしいよ。正に、私の部下が捕虜だった3人を見付け、交渉中だ」
「!?」
谷崎の顔が歪む。
「如何いうことだ?」
国木田にも焦りの表情が浮かぶ。
「マフィア側に『手を組む』交渉だ。探偵社の事務員の引き渡しを要求している」
「「「何だと!?」」」
谷崎はもちろん、国木田と敦と敦も大きく反応した。
マフィアにとって、ナオミの命など如何でもいいものの筈。
―――谷崎が恐れていたことが現実になろうとしているのだ。
「単身にしない方が良かったなぁ?お嬢ちゃんよ」
男がニヤリと笑った。
「………はぁ」
「!」
そんな男の方に向き直り、薄雪は態とらしく溜め息を着いて見せる。
「それで?」
「…は?」
「私には貴方が優越感に浸りながら話す理由が判りかねますけど」
淡々と。
薄雪は男に首を傾げながら云った。
本当に判っていないのか。
心配と焦りしかない3人とは打って変わって、何時も通りの薄雪に探偵社組は苛立ちすら起きない様だ。