第7章 戦争の残火
「兄様が迷惑をお掛けします」
「否、気にするな。アイツは元から迷惑しか掛けん奴だからな。今更だ」
国木田の返しに、薄雪はクスクスと笑って一礼する。
「「では失礼します」」
「ああ。お前達も気を付けてな」
挨拶を済ませ、国木田は歩き出した。
そしてフッと、先刻の考えの続きが頭を過る。
………本当にマフィアだったのだろうか、と。
若くして入社する理由を問われ
『両親は既に他界してまして、私自身も病弱なものですから学業よりも手に職を持っている方が金銭面でも都合が良いと考えたからです』
淡々と答えていた。
太宰と本当は面識があったことも間違いなさそうだから元マフィアと云うことは事実だろうが………
「抑も……『狡猾さ』や『残忍さ』が微塵も感じられないマフィアなんて居るのか?」
『冷静さ』や『鋭敏さ』は持ち合わせているようだが、2年程過ごしてきて『マフィア』だと思わせる要素を一度も感じたことが無い。
武道をかじったことがあるものなら相手の力量を多少なりと感じるものだが―――。
「病弱と関係があるのか?」
だから福沢が容認しているのかもしれない。
そう結論付けた、その時だった。
「きゃあああああ!」
「!?」
自分の後方。
ひいては、今し方分かれたばかりの人物の声と思われる悲鳴。
国木田は直ぐに身を翻し、先刻、2人と分かれた道の方へ走り出した。
「白沢!谷崎!」
角を曲がり、2人の名を呼ぶ国木田。
「んーっ!!」
見知らぬ男数名に拘束され、正に車に乗せられようとしている所だった。
「くっ!『独歩吟客』―――!!」
「んっ!!」
国木田が懐に手を入れながら云う。
そんな国木田に薄雪がしきりに後方を指し、何かを伝えようとする動作をする。
「大人しくしないと2人の命は無い」
「!?」
後頭部に銃を突き付けられ、告げられる一言。
鉄線銃に変化していたモノが、元の紙切れに戻った。
国木田は両腕を上げ、無抵抗を示す。
手帳を取り上げられると
2人が乗せられた車とは別の車両に乗せられたのだった。