第7章 戦争の残火
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「良い買い物が出来た」
国木田は手に持っているスーパーの袋を掲げて満足そうに笑うと時計に目をやった。
「む、いかん。早く社に戻らなければ予定が狂ってしまう」
直ぐに何時も通りの国木田に戻ると、足早に社へと向かって歩き出した。
暫く歩いていると、国木田の視界に見知った人物達を捉える。
「白沢、谷崎」
声を掛けると同時に振り返る、同じ探偵社で働いている事務員と手伝いの子。
基、白沢薄雪と谷崎ナオミだ。
「お疲れ様です国木田さん」
「国木田さんも買出ですか?」
「ああ」
国木田さん「も」と云うことは、2人も事務所の備品などの買出しに出てきたのだろうと考える国木田。
否。
声を掛けた理由はそれを確かめたかったからではない。
「白沢」
「はい」
「太宰を見なかったか」
「治兄様ですか?」
つい先日から「太宰さん」呼びから「治兄様」と呼ぶようになったのは恐らく、
元マフィアと云う事実を隠す必要が無くなったからであろう。
社の長である福沢も、その事実が判った上で薄雪のことに一切触れない。
社長の判断を否定することなど国木田は絶対にしない故に、彼女が如何なる者であっても「社員」として接することを決めたのだ。
―――譬え「入社試験を受けていない」事務員であったとしても―――………。
いかん。社長の決めたことだ……。
入社試験を合格していない元マフィアを内に置いておくことの不安を国木田は完全に拭えたわけでは無かった。
「――国木田さん?」
名を呼ばれてハッと我に返った。
「済まん。考え事をしていた」
その返答に薄雪が苦笑する。
「……。」
その表情を見て薄雪は凡てを悟っているのだろう、と思った。
物事を見透す眼が―――太宰に、似ているのだ。
「治兄様は敦さんと出掛けたまま行方不明です」
「敦が一度社に戻って嘆いていた時には既に居なかったな」
「何時も通り、河に飛び込んだそうですよ」
「~~~~っ!」
怒りが込み上げてきたのか。
国木田がワナワナと震えるのを薄雪とナオミは苦笑して見ている。
「あ、薄雪さん。此方ですよ」
「あら。そうでした」
交差点に差し掛かり、国木田と行き先が分かれる。