第6章 争いの日々の中で
―――
「ただいまー」
「……お帰りなさい」
当たり前のように薄雪の部屋に入ってくる太宰。
何故、自分の部屋に帰らないのか。
と、云いたいような云いたくないような……。
複雑な心境で薄雪は応答した。
「また派手に怪我をしてきましたね……っ!?」
太宰の元に歩み寄ってきた薄雪にガバッと抱き着く。
「治兄様!?脳内まで怪我されたんです!?」
「―――中也に抱き着いたらしいじゃないか」
「!?」
耳元で低い声で囁かれたせいか。
薄雪の肩がビクッと跳ねた。
「………久し振りにお会いしたから…つい」
「私と会った時は逃げたくせに」
「……。」
薄雪が黙り込んだ。
太宰がゆっくりと離すも俯いたままの薄雪。
意地悪し過ぎたか。
逃げた理由など山のようにあることくらい判ってて訊いているのだから。
太宰がどう切り替えそうか算段していると
「………だって……」
ポツリと声が聴こえた。
「兄様……怒ってると思って……」
「怒ってたら会いたくなかったの?」
薄雪が顔を上げた。
「だって…『迎えに来てくれない』程に怒ってて……行方不明になってるって……もう会いたくない……嫌いで……っ」
その目には涙を一杯溜め込んでいる。
「文章に成ってないよ薄雪」
「………だって……兄様がっ……」
溢れ出した涙を手で拭ってやりながら太宰はうふふ、と笑い出した。
「薄雪がこんなに私のことを好いていたなんて知らなかったよ」
「………どうせ治兄様の中で……私は何時までも妹分のままです」
グスッと泣きながら薄雪が云うと、ピタリと手の動きを止めた。
「 え。」
今、この娘は何て云っただろうか。
「何時までも妹分のまま」と云ったか?
それは詰まり―――?
「薄雪。中也が好きなんじゃなかったの?」
「?中也兄様は好きですよ。何だかんだで優しいですから」
「じゃあ私は?」
「治兄様は―……」
云い淀む。
太宰が隙かさず口を開こうとした時。
「……。」
薄雪の顔が真っ赤に、染まった。
その表情は――――。
太宰の理性を崩壊させるのには、充分すぎるモノであったのだった。