第6章 争いの日々の中で
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武装探偵社社長室――。
密会を終え、此れからの作戦の指揮を取り終わった福沢は自室のソファに座り、茶を飲んでいる。
「そろそろか」
「そうですね。動き始めた頃でしょう」
「―――マフィアは動くか?」
コトッと湯呑みを置き、目の前に座っている人物―――薄雪に問う。
薄雪も、一口お茶を飲むと湯呑みを置いて答える。
「動きます」
「……。」
「でも社長が考えているような動きではありませんよ」
「何故、そう云い切れる」
「森医師は、ああ仰ってましたが『完全な同盟を結ぶ理論解』は存在します」
「!」
「森医師は合理性の権化ですから戦況に応じた最善の一手を必ず打ってきます。譬え、その一手が『対立組織と共闘する』ことであっても」
「……。」
「今頃、治兄様のことをよく知る人物が加勢してる頃でしょう」
ニコッと笑って告げた。
「そうか」
納得したのか。
福沢は目を伏せながら頷いた。
「私からも質問宜しいでしょうか」
「何だ?」
「『何故』です?」
「……。」
福沢は目を閉じたまま薄雪の声に耳を傾ける。
「疑問には思っていたのです。此処で勤める者の凡てを調べている筈なのに私が入社出来たこと」
入社当初は知りもしなかったが、段々と判ってきたこと。
武装探偵社は、その辺の探偵なんかとは似て非なるモノということ―――。
「私は私の過去が消されていることを最近まで知りませんでした」
「……。」
「でも調べていたのであれば私が知るより遥か前に周知されていた筈……私が黒社会の人間だということを」
福沢は漸く、目を開いた。
薄雪は福沢から一切目を離さずに見つめている。
「ある方に頼まれたからだ」
「え?」
予想外の答え。
一体、誰が。
薄雪の脳裏に太宰の顔が浮かんだが、直ぐに消去した。
数年遅れて入社してきた太宰では不可能だと思ったからだ。
「誰かは教えられん」
問う前に問うことを禁止されてしまった。
「だが、此処に居れば何れ判るだろう」
「!」
ハッとして福沢を見る。
そして
「未だ私を置いて下さるお積りですか?」
今までの質問よりも最も知りたかったことを訊くことが出来た。
「む。裏切る予定でも有ったのか?」
「それは無いですけど」