第6章 争いの日々の中で
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薄雪の目の前で繰り広げられているのは二大異能組織の密会。
薄雪は太宰の隣に座っていた。
太宰が離席した後も大人しく、ただ座って。
目の前で行われているやり取りをただ観ていた。
「武装探偵社とポートマフィア、ですか」
ポソッと呟いた自身の言葉。
忘れてしまっている―――「過去の記憶」に触れた気がした。
「?」
それが何だったのか。
大事なことだったような、そうでないような。
薄雪は「気のせいかな」と思うことにして視線を目の前のやり取りに移そうとした。
「如何かした?」
「!」
何時の間に隣に戻ってきていたのか。
声を掛けられるまで太宰の存在に気付かなかったほど考えさせる『何か』なのか。
「薄雪?」
「あ、いえ。大したことではありませんが何か……」
「?」
「私は大事なことを忘れてしまっているような――………」
そう話している時。
別の声が、近づいてきたのだ。
「ではまた太宰君。マフィア幹部に戻る勧誘話は未だ生きているからね」
「真逆。抑も私をマフィアから追放したのは貴方でしょう」
ポートマフィア首領―――森鴎外
薄雪は森と太宰のやり取りを、2人の顔を交互に見ながら聞いている。
「君は自らの意志で辞めたのではなかったのかね?」
「森さんは慴れたのでしょう?いつか私が首領の座を狙って貴方の喉笛を掻き切るのではと。嘗て貴方が先代にしたように」
「………。」
誰も口を挟まない。
「鬼は他者の裡にも鬼を見る。私も貴方と組むなど反対です」
ニッコリ笑って告げる太宰。
森も返答など想定していたようで溜め息を着いただけだった。
そして視線をその隣に移す。
「家出は愉しいかい?」
「はい」
「そうか。なら、飽きたら戻ってきなさい」
「……。」
それだけ云うと森は部下を引き連れて去って行ったのだった。
それを目で追いながら太宰の外套の裾を掴む。
「充分だよ」
それだけで。
自分の今の心情凡てを太宰が理解している事が判ったのか。
薄雪は微笑んで、頷いた―――。