第5章 真実
「今のお主は完全にマフィアから抜けているのじゃ。鴎外殿も薄雪の家出に関しては関与しないよう命を下しておる。―――戻ることは簡単じゃからの」
「!」
薄雪の頬を一筋の涙が伝う。
「私は………何処に居ても誰かに守られているのですね……」
「当然じゃ。家族みたいなもんだろう?」
「……紅葉姐様――……」
薄雪から紅葉に抱き着く。
久しぶりの妹から、甘えられて紅葉は満足そうに薄雪を抱き締めた―――。
―――
「話は最初に戻るが太宰に虐げられておらぬか?」
「大丈夫ですよ」
笑顔で返す薄雪を見て不服そうな顔をする紅葉。
「心配じゃ。性格の悪さは全く変わっておらぬからのう」
「それはその通りですけどね」
持ってきた茶菓子を食べながら返事する。
「して?どこまでいったんじゃ?」
「何がです?」
「結婚まではいかぬともそれなりの関係じゃろうて」
「へ?」
薄雪が顔を赤らめる。
「あの男は苦労するぞ。出来ることなら他の奴にした方が良いのじゃが」
「まままま……待って下さい姐様!誤解です!結婚どころか治兄様とは今までと何一つ変わらない関係以外のなにものでもありませんよ!?」
ワタワタと手を振りながら否定する薄雪。
「なんじゃ?未だ告げておらぬのか」
「うぅ―……治兄様は……きっと私のことなど『妹』にしか見えないから……」
「薄雪に云ったんじゃないぞ」
「………え?」
「まあ善い。薄雪も折角、外に出たのじゃ。好い人が見付かるといいのう」
「……はい」
「それでも太宰が善いなら仕方無いが」
「………姐様、少し意地悪です」
くっくっ、と笑いながら薄雪の頭を撫でる紅葉。
「そろそろ戻ります」
「もうか。一緒に居てくれて善いのじゃが」
「またお茶菓子持って来ます」
「ふふっ。愉しみにしておるぞ」
そう云って、薄雪は去っていった。
「帰って鴎外殿に自慢せねば」
紅葉は満面な笑みでそう云うと、投げ棄てたことを忘れていた本を拾い上げ、頁を開いた――。