第5章 真実
―――
「―――と、治兄様と口論になって勢いで荷物を纏めて手紙を」
「成る程のう……」
紅葉が茶を口にして納得した返事をする。
「紅葉姐様は何故、私が治兄様と同じところに居ると?」
「その前に私からもう1つ質問じゃ」
「何です?」
「何故、誰も追ってこないと思うかえ?」
「え…。要らないからでは?」
首を傾げて云った薄雪に紅葉が抱擁をする。
「そんなわけないじゃろ。私は何時だって薄雪を迎えに行こうとした」
「!」
薄雪がピクッと反応をする。
「―――矢張り、肝心なことは何一つ話しておらぬな、あの男は」
「え……今なんて」
紅葉が抱擁を解く。
「薄雪のマフィアでの活動記録は綺麗に抹消されておる」
「え!?」
薄雪が眼を見開く。
「恐らく異能特務課の仕業じゃ。しかし、何の理由もなくそんなことはせぬ。となると、じゃ」
「……。」
「『誰か』が故意に消すように依頼したと考えるのが筋じゃろう」
私のマフィアでの活動記録が抹消されている――?
故意に――?一体誰が?
「薄雪の質問に答えようぞ」
「!」
混乱している薄雪に紅葉は続ける。
「彼奴…太宰も薄雪が家出した日に失踪しておる」
「!?」
治兄様が?否。
そんな筈は……だって治兄様が探偵社に来たのは2年前で、私が社に入る1年後くらいで………え?
完全に頭の整理がつかない。
「鴎外殿は理由が判っておったようじゃがのう」
紅葉は薄雪の頭を撫でる。
「そんな太宰の失踪と同じタイミングで出ていったのじゃ。太宰と共に居ると考えるのが妥当じゃろう」
「そんな……!私は取り敢えず働き口を探して、探偵社に入ることになったのは偶々で――……!」
『………で?どの部分で世界は広いと感じたの?』
『偶然の再会を果たすところ』
突然、走馬灯のように昔のやり取りが頭を駆け巡る。
『私もこの本のように誰かと出会って結婚して、子供を産んで…お婆さんになれたら善かったのに』
「真逆………」
「薄雪の傍にずっと居た男じゃ。そう易々と手放すまい」
紅葉は呆れた風に溜め息をついた。