第5章 真実
『この本に書かれていることが本当ならば、私の知らないことばかり。矢張り、世界は広いのですね』
『恋愛小説かい?』
『さあ?』
『……何の部類の本か判らずに読んでいるのか』
『治兄様の問いに答えられなかったから恐らくそうですね』
『呆れた。そんなので内容を理解できたの?』
『名前も聞けなかった命の恩人と偶然の再会を果たして、数々の困難を乗り越えて結婚する話でした』
『それを世間一般では恋愛小説と位置付けるのだよ』
『そうなんですね。また1つ勉強になりました』
『………で?どの部分で世界は広いと感じたの?』
薄雪の返答の一つ一つに呆れながらも返す太宰。
『偶然の再会を果たすところ』
『は?』
思いもよらない答えが返ってきた。
『だって私達は『会いたい』相手はどんな手段を取ってでも会うではありませんか』
『………そう』
間違いではない。
ただ、そんな小さいことですら感心する薄雪に思うところは、山のようにある。
『私もこの本のように誰かと出会って結婚して、子供を産んで…お婆さんになれたら善かったのに』
『なれるでしょ。薄雪が結婚したいと云えば、必ず薄雪の好い人と結婚できる』
『……そんなの、普通じゃないです』
『じゃあ普通になれば良い。薄雪の異能があればマフィアなんて簡単に抜け出せる』
太宰が云った。
その言葉に、薄雪は少し不機嫌な顔をする。
『抜け出せたところで普通になれるわけがないです。蛙の子は蛙
―――だからマフィアの子はマフィアなのですよ』
その言葉を鼻で笑って。
『君はヒトの子でしょ?ヒトは多様だからねぇ。
―――だから其れは言い訳だ。臆病者の、ね』
臆病者―――。
『今日の兄様は普段以上に意地悪です』
『本当の事を云っているのだよ。何も知らないと云うことは何も知ろうとしないと同意』
『!?』
『外を知ろうとするために何かしたことはあるかい?憧れるだけで、待ち受けるだろう危険に怯えているだけだろう?』
『……。』
図星だ。
おかげで言葉を紡げない薄雪。
『一生、そうやって自分の運命を嘆いていれば良いよ』
『………。』