第3章 慌ただしくなる日々
―――
チンッ!
「綺麗に焼けたかなー」
楽しそうにカパッとトースターを開ける薄雪。
グツグツと云う音と共に姿を見せたのは表面だけ綺麗に狐色になったグラタンだ。
「善い色に仕上がりました」
ニコニコと。
探偵社の誰にも見せたことの無いほどの笑みを浮かべて皿を取り出すためのミトンを着用する。
そして、チラリと壁に設置している時計を確認した。
時刻は夜8時を過ぎたところ。
夕飯にしては少し遅い時刻になりつつある。
仕事は既に終わった時間だろう。
それでも来ないと云うことは
国木田たちと飲みに出掛けたかもしれないし
帰宅中に女性に声を掛けられて食事に行ったかもしれない。
抑も、本当に食べに来る気だったのでしょうか――?
再会を果たしてから約2年。
仕事中にそんなに話すわけでもないから遠巻きで見ているだけの薄雪だが、太宰は昔と変わらず……のらりくらりと日々を過ごしているよう。
けれど―――矢張りマフィアにいる頃とは違うと。
太宰も『コチラ側』の生活の方がきっと楽しいのだろう、と。
そんな太宰のことだ。
「他に楽しいこと、いっぱいあるんだろうな…私と食事することよりも楽しいこと…」
ポツリと呟いて、皿を取り出すとそのまま机に運ぶ。
「あ、焼けたかい?」
「はい。色も綺麗に焼け………」
コトッ、と。
皿を置き終わっていたから良かった。
驚きのあまり、勢いよく台所まで戻る薄雪。
一体―――
「何時から其処に!?」
冷静になって直ぐに戻ってくる。
「何時って……薄雪が『早速、始めましょ』って野菜を切り始めるところ辺りから」
「私が帰宅して、直ぐの話じゃないですか!」
頭を抱えて項垂れる薄雪。
独り言を聴かれてた!?
そればかりが頭を駆け巡る。
「楽しそうに料理してたじゃない」
ギクッ!
ふふっと笑いながら云う太宰の顔を恐る恐る見る。
からかわれる…!
そう思って見た太宰は、グラタンのスプーンを手にとって料理に視線を移していた。
「何してるの?冷めてしまうでしょ」
「あ……はい」
薄雪は座り直して、手を合わせた。