第1章 ※原作より過去に戻る
私は今モリアーティ教授と本屋に来ていた。そしてすこぶる機嫌が悪いアラフィフ紳士は一冊の本に手を伸ばして小さく呟いている。そこには『シャーロック・ホームズ』とイギリス英語で書かれており「あっ…(察し)」と納得した。
「マスター…君は知っているだろうし既にあの男と出会っているだろうが。なんで私がアラフィフで、お前は超絶イケメンなんだ!マジ許さネー」
「まぁ…イメージ通りなんでしょうね、ジェームズさんはオジサマ紳士の雰囲気ですし」
苦笑いの私は怒るところ…そこなの?と思うが気にしないでおこうと聞き逃す。しかしその台詞はフラグにしかならず、これはきっと単発でシャーロック・ホームズも来るなと考えた。先ずこの名探偵の世界である、事件はいつも転がっているように簡単に巡り会えるしモリアーティが来た瞬間、もう確実に一つフラグを回収してしまっている。難事件が多いと言うのか、はたまた治安がかなり悪いのかは分からないが米花町や杯戸町は名探偵の彼からすればとても退屈せずに過ごせるだろうなとは思うが…
「それで…買うんですか?」
「…君はホームズの勇姿や私の死にざまを見たいと思うかね?」
それならずっと握り締めているシャーロック・ホームズの本を置いて下さいよと思うが、モリアーティは案外ツンデレだったようだ。宿敵であり良きライバルであるホームズと自分自身の生涯、そしてなにより熱くしかし冷静な推理戦に読者ファンは勿論の事、その本人でさえ心踊るだろうと思えた。
「なら、私が買います」
「…だが君は字が読めるのかネ?」
「折角目の前に天才の教授がいますから、これに乗じて読み書きの勉強をしようかなと思いましてね?」
私が手にしたのはイギリス英語である、アメリカ英語でも苦戦すると言うのを彼は直ぐに見抜いたのだろう。しかしその発言は嘘ではない。私は知り合えたモリアーティの辿って来た世界や見て来た風景などを見たい、もっと彼に近付きたいと思ったから伝えただけだ。まぁ…私の浅はかな想いなど分かっているであろう彼は目を丸くさせてから大笑いする。
「ふははは!そうか、それは良い。ふむ…それでは授業を始めよう。家に帰ったら先ず紙とペンを用意しておこうか…私は数学以外も教える事が得意でね」
知っていますとも。だからこそこれ程光栄な事はない…本当に良いの?と問う私に、モリアーティ教授は笑っているだけであった