第1章 しづ心なく(土方side)
「ちゃ、ちゃんと、店を見てから予約した方がいいだろ?」
「そうだけど、土方さん、忙しいんじゃないの?」
「きょ、今日は早番だから、攘夷浪士のテロでも起きない限り、夜は空けられる」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ、夜8時頃になっちゃうと思うけど、私も何とか仕事を上げるね」
「待ち合わせは、……そうだな、この店の前でいいか?すぐそこだから」
「わかった」
「もし遅れそうになったら、連絡するね。土方さんのメールアドレス教えてもらっていい?」
「……」
プライベートで女性のメールアドレスや携帯電話の番号を交換することなんてないから(接待のキャバ嬢は別だが、あれはあっちもビジネスだからな)、ちょっと焦った。
しかも仕事用の携帯だが……、まあいいか、真撰組副長の携帯電話に弁護士先生の連絡先の一つくらい入れておいたって、おかしくはないだろう。
「土方さんが、直接連れてってくれるなんて、嬉しい。本当に助かるわ」
携帯をしまった彼女が、頬杖をついて俺の顔を見た。
もちろんそれは、幹事を任された責任感からの言葉なのだろうけど、まるで俺が彼女を誘ったことを喜んでいるみたいに聞こえて、屯所に戻ってからも、しばらく俺の頭は沸騰したかのように、使い物にならなくなった。
今夜だけは、おとなしくしていてくれ――、俺は、攘夷浪士(と総悟)に手を合わせて拝みたいような気持ちだった。
今夜だけは、二人で飲みに行って、それから……。
それから?
俺は頭を振った。違う違う、店を案内するだけだ。本当に、それだけなんだから。