第2章 恋ぞつもりて(土方side)
それからしばらくして、新橋の料亭で接待を受けたとき、俺は誰のこととも言わず、松平のとっつぁんに、こんなことを聞いてみた。
「大江戸の芸者衆が年季奉公明けるまでには、どのくらいかかるもんなんだ?」
「その芸者の借金の量にもよるが、大抵七年てとこだろうな。……なんだトシ、おめぇ芸者を身請けでもしようってのか」
「そういうんじゃねえよ」
「ふうん」
とっつぁんの疑うような視線をスルーして、俺は再び考えをめぐらす。
十五で芸者になって二十二、十八ならば二十五。
それより前に芸者をやめるには、借金を帳消しにする必要がある。
どんなに売れっ子の芸者であっても、自分の稼ぎで借金を帳消しにした上に、弁護士になるために勉強する元手を手に入れるなんて土台無理な話だ。
となれば、やっぱり「旦那」がいるのか。
俺はため息をついた。
彼女に「旦那」がいるのであれば、そう簡単に手を出したりはできない。
俺がどうのということだけではなくて。
間男の存在によって、「旦那」との関係がこじれ、その契約が破談になる――なんてことも、よく耳にすることだ。
そこまでのリスクを、彼女に負わせてしまっていいのだろうか。
あるいは妾という形を避けて、当世風に「旦那」と「結婚」という形をとっている可能性もある。
この場合、下手すりゃ裁判沙汰だ。
思いは積もり積もって、俺の心に淵を作るほどなのに、出てくるのはため息でしかない。
「辛気くせえため息つきやがって。そんなにその芸者を身請けしてえのか」
「だから、そういうんじゃねえって」
「でも最近は、いいとこの嬢ちゃんが行儀見習いとして半玉になることもあるらしいな。かつての御家人の娘も新橋には多いと聞くぜ。そもそも置屋に生まれた娘なら借金もなしで芸者になるんだ、年季奉公してない看板貸しの芸者も多いらしいぜ」
「……そういうモンなのか」
「詳しい話なら、今踊ってる芸者衆を一人くらい、枕席に侍らして聞き出したらどうだ。それともその芸者に操立てしてるのか」
とっつぁんは煙をふっと吐いた。
だから。
そういうことじゃねえって。