第2章 恋ぞつもりて(土方side)
週が明け、心ここにあらずの俺は、屯所でも見回りの最中でも、ぼうっとしていることが多かったらしい。
「副長、副長!」
しばらく呼ばれても返事をしないこともしばしばだった。
「おい、トシ、どうしたんだ、ぼうっとして。体調でも悪いのか」
「いや……」
「隠居してもらっても結構ですぜィ。俺が代わりに副長になりまさァ」
「んだと?」
「ふうん。やっと瞳孔開きましたねィ。でも、いつもより殺気がありやせん」
「うるせェよ!お前、上司が常に部下に殺気持ってるってどういう組織だよ!」
「緊張感が真選組に必要だって常日頃言ってるのは土方さんじゃありやせんか」
「……」
うるせえよ。
そんな俺たちのやりとりを見かねたのか、近藤さんが口を開いた。
「わかった!トシ、お前はちょっと働き過ぎだ。今週は内勤にシフト変更しろ。局長の命令だ!」
「な、なんで!俺は……」
むしろ俺は、内勤になって部屋で鬱々としていと、余計なこと、つまりそれは彼女のこととか彼女のこととか彼女のこととかだが、それを考えてしまう気がして怖かった。
「これでトシに倒れられたりでもしたら、困るのは俺たちだ。頼む。お前の身体はお前だけのものじゃない。お前はこの組織の要なんだから、今週は大事をとって休んでくれ」
「じゃあ、近藤さんもストーキング行為を今週は慎んでくれ」
「ええ?」
「ええ、じゃねえよ。俺が内勤なんだったら、あんたが外向きの仕事やってくれるってことだろ?それにあんたの最終的な決済が必要なんだから、書類作っててもらちがあかねえんだよ!」
「そ、そうか……でも書類はお前に委任してるからさぁ……」
ごにょごにょ近藤さんが言う。
悪い、近藤さん。
自分がぼうっとしているのは、自分の問題なのに。
近藤さんのせいにすり替えた。
「副長、お茶をお持ちしました」
「おお、山崎、そこに置いておいてくれ」
「あまりタバコ吸っちゃだめですよ」
「そりゃ無理だ」
山崎が淹れてくれた茶を口に運びながら、俺は自分自身に苦笑した。
女のことを考えてぼうっとするだなんて経験、今までにあっただろうか。
少なくともここ数年はねえな。上州時代か?
ざまあねえな。ははっ。