第2章 恋ぞつもりて（銀時side）

「何で芸者じゃなくて、弁護士になることにしたんだ」
「まあ、芸者のときに向いてるっておだてられたのが一番なんだけど」
史緒ちゃんは苦笑した。
「芸者がお座敷でやるのは絶対に御法度なのに、まだ見習いの半玉の時にはよくお客さんの話に反論したりしてね。まだ子供みたいなもんだったから、お客さんも笑って可愛がってくれたのね」
「ははっ想像できるな」
「ええっ？」
俺は笑いながら話を聞いた。
「私なんかはそんなに困ったことはなかったんだけど、中には置屋にかなり搾取されてる仲間の半玉なんかもいて。義憤を感じるようになったのが、直接の理由かしらね」
「なるほどねぇ。鞠千代姐さんは、正義の味方ってことか」
「そんなんじゃないけど」
史緒ちゃんは顔を少し赤くした。
「だから……吉原を解放した救世主の銀さんのこと、本当に尊敬してるのよ」
ゲホッゲホッ！
いきなり俺の話になって、むせてしまった。
ああ、せっかくのうまい酒を吹き出してしまったら、もったいない。
「あれは、俺の手柄じゃねえよ。君臨していた夜王をみんなで袋叩きしただけだ」
それが本当に良かったのかどうかなんて、俺にはわからない。
俺の存在も、大河からちょっと跳ね上がった、一滴の水でしかないのだから。
「でもそれをする人は、今まで誰もいなかった。お上だって手を出せなかった不夜城に太陽が昇ったのは、銀さんが立ち上がったからだわ」
「……」
そんなふうに面と向かって誉められるなんて、ガラじゃねえな。