第2章 恋ぞつもりて（銀時side）

そして金曜日。
俺はいつもの服で歌舞伎座の前にいた。
時間ギリギリに、史緒ちゃんが駆けてくる。
「ごめんなさい、私が誘ったのに、待たせてしまって」
いやでも俺は、史緒ちゃんが俺のために走ってきてくれたのが嬉しい。

子供の頃、芝居を見に連れて行かれたことはある。
もちろんこんな立派な場所ではなくて、木造の芝居小屋だったけれど。
確か、社会見学を兼ねて先生が連れて行ってくれたのではなかっただろうか。
ほんの子供だったから話はよくわからなかったにせよ、華やかな雰囲気には心を奪われた。
それからもう、二十年くらい経っているのか。
まさか女連れで、こんな立派な建物に歌舞伎を見に来ることになるとは思いもしなかった。

どちらかというと、今日も話の内容より、それに目を奪われている隣の史緒ちゃんを眺めている方が楽しいけどな。
前のめりになって、静御前と狐忠信の動きを射通すように見ている。
ああ、舞が好きなんだなあ、ということがこっちにも伝わってくる。
俺が見る踊りっていったら、長谷川さんとたまに見に行くストリップくらいだもんな……。
ええっと、これは史緒ちゃんには黙っとこ。

結局、舞台よりほぼ史緒ちゃんの顔を見て終わった俺の歌舞伎鑑賞。
しかしむしろこれからが本番。
俺はかなり浮かれた気持ちで史緒ちゃんを促し、ロビーに出た。