第2章 恋ぞつもりて（銀時side）

「あれ、鞠千代ちゃんじゃないの？」
玄人らしき姐さんが二人、俺たちに駆け寄ってきた。
場所が場所だけに、新橋の芸者衆だろうか。
え？銀さん、吉原の救世主って言われてるけどさ、こんな姐さんの知り合いいないんだけど。
「あ……ご無沙汰してます」
頭を下げたのは史緒ちゃんだった。
え？
これどういう展開？
俺は状況がつかめないまま、女三人寄れば姦しい、を地で行くおしゃべりの波に飲み込まれた。
「やっぱり鞠千代ちゃんね？スーツ着てるから、別人かしらとも思ったんだけど。すっかり弁護士先生が板についちゃって」
「まだまだ駆け出しですよ」
「鞠千代ちゃんなんてもう呼べないわね」
「芸者をやめて司法試験受けるなんて聞いたときはびっくりしたわよ」
「お客さんも何人も残念がってたんだから」
「そうですか……」
「ねえ、こちらのお兄さんは？」
「鞠千代ちゃんの、今のいい人？」
「いえ、その、そういうんじゃないんです」
あれ、そういうんじゃないんだ。
銀さん、ちょっと落ち込むわ。
「かぶき町で万事屋を営んでいる、坂田銀時さんです」
「はじめまして。綺麗なお姐さん方に会えて、いい歌舞伎見物になったなあ」
顎に手をやりながら世辞の一つもいうと、艶のある仕草で姐さん方は笑った。
「こちらは、柳町の玉菊姐さんと清葉姐さん」
「ねえ、『吉原の救世主』って言われてるの、このお兄さんね」
俺は頭をかいた。
「いや、単なる遊び人ってだけですよ」
「あらあら、じゃあ柳町のピンチの時には助けてもらいましょ」
「吉原とは違った芸をお見せしますわよ」
そんなことを言いながら、艶やかに去って行く二人。
いやいや、これが柳町のもてなし方か、と感心しながら横を見ると、史緒ちゃんが暗い表情で俺のことを見ていた。
あれ、これから二人でしっぽり行きたいところなのに、どういう風の吹き回し？
暗雲垂れ込めてきてねえか？