第2章 恋ぞつもりて(銀時side)
そして次の水曜日。
俺の前に座った史緒ちゃんは、思いがけないことを口にした。
「銀さん、明後日の夕方からってお仕事だったりする?」
「いや、今のところ仕事は入ってねえな」
ほんとはここんとこ仕事なんて全然入ってないけど。
「良かった!あのね、実は頂き物の歌舞伎のチケットが余っていて、一緒に行ってくれる人を探してるの」
オイオイ、それって、デートの誘いってことですかァァァ?
ほんとは声をかけたの俺で何人目なのか気になるけど(しかも男で複数番目だったりするのかもしれないけど)、そこはぐっと押さえて俺は言った。
「史緒ちゃんと一緒に歌舞伎見に行くってこと?」
「そう。ダメかな?」
「全っ然ダメじゃないよっ!史緒ちゃんとデートならどこでも銀さんOKっ」
「ふふ。銀さんって優しいよね」
史緒ちゃんとのデートなら肝試しでも歯医者でも行ける気がするぜ、今の俺。
歯医者デートってよくわかんねえけどな。
「でもさ、俺、歌舞伎なんて見たことないんだけど、それでもいいのかよ?」
「初歌舞伎なんだ?かぶき町に住んでるのにね」
「そういやそうだけどな。このかぶき町は、あの歌舞伎とは全然接点ねえな」
「かぶき町にも歌舞伎の演舞場を作るっていう話が攘夷戦争の終わりにあったみたいよ」
へえ。俺は所詮流れモンだから、そんな町の名前の由来なんて知らなかった。
「なあ、歌舞伎ってどんな格好で見に行くんだ?正装した方がいいか?」
「え?何でもいいのよ。私だって仕事帰りだからスーツ着てるわ。銀さんは、いつものその格好でいいんじゃない?」
そっか。羽織袴とかじゃなくていいのか。