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【YOI】モンスター・ハンターズ【男主&ユーリ】

第1章 青い瞳のサムライ


最終滑走者だった礼之の結果が出て、自身の優勝が決まった『ロシアの貴公子』ことユーリ・プリセツキーは、喜びとは程遠い渋面を隠せずにいた。
「…ふざけんじゃねえぞ。何なんだよこの茶番は」
「優勝したのはお前だ」
「こんなんで喜べってか?コンビ抜けとステップアウトやらかした俺と、大して要素変わんねえ転倒ゼロのあいつなら、どっちが良いか誰でも一目瞭然だろうが!」
成長期の体型変化により若干の成績不振に悩まされていたユーリは、礼之の演技が終わった時点で敗北は免れないと思っていた。
しかし、一見目立ったミスはなかったかに思われた礼之の演技は、回転不足やその他減点が重なり、予想を遥かに下回る点数が無情にも会場の電光掲示板に映し出されていたのだ。
「後半の4-3も、アイツ回り切ってたじゃねえかよ!ここまでの減点なんてありえねえ!」
「今では、お前がロシアのトップだ。地元ロシアの大会で負ける訳にはいかん。…特に、あの曲を滑るような男になど」
「『サムライ』は、カツ丼と同じ日本の選手だ!」
「だが、彼はフィンランド人とのハーフだ。その彼が『フィンランディア』をここロシアで滑った。それで充分だ」
「いつの時代の話だよ、くだらねえ!じゃあ、俺がフランスでチャイコフスキーの『1812』やったら、DG刺されまくるとでもいうのかよ!?」
努めて仏頂面のまま返すコーチのヤコフに、未だ血気盛んな年頃であるユーリは、眉間に物騒なシワを作りながら更に声を荒らげようとしたが、その時会場のあちこちから怒号やブーイングが轟いた。
国籍や年齢問わず、この結果に納得が行かない理由はみな同じだったようで、各国の老若男女様々な観客達からの抗議の声は鳴り止まない。

「これは…」
「何やえらい事になりましたね…あ、礼之くん?」
礼之やコーチと共にキスクラにいた振付師の藤枝純は、それまで何かを堪えるように拳を握りしめていた礼之が、立ち上がるのを見た。
礼之の様子に、観客達も視線を集中する。
やがて礼之は小さく一度だけ首を振ると、穏やかな表情を浮かべたままその場で一礼した。
そんな礼之の姿に、今度は彼を讃えるような拍手と歓声が上がった。
「彼こそ、真のサムライだ」と。
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