第2章 若き狩人達
かつてJGPFで争った事のある青い瞳の日本人選手が、自分のジュニア時代の記録を全て塗り替えてシニアに上がってきたという話を耳にしたユーリは、彼が自分と同じGPSロシア大会にアサインしているのを見て、対戦を楽しみにしていた。
「高みを目指して上ばかり見ている貴方の足元を掬いに来ました。僕の瞳の『青い』内は、貴方に油断なんてさせません」
そんな彼の発言と、一見穏やかそうな瞳に秘められた確固たる闘志を感じ取ったユーリは、久々に味わう「下から追われる感覚」に武者震いを覚えた。
成長期の体型変化の為本調子でなかったとはいえ、ユーリはSPでの気迫溢れる礼之のスケーティングとレベルに、普段歳上のライバル達を相手にしている時とは違った新鮮な気持ちを堪能していたのだ。
それなのに。
「こんなんでお前を負かしたとか、自惚れちゃいねえからな」
「…結果が実力ですよ。僕の力が及ばなかっただけの事です。でも、僕はこのプロを滑った事は後悔してません。次はもっと頑張ります」
「あのよ。お前の『青い瞳のサムライ』ってあだ名…ちょっとずるくね?」
「え?プリセツキーさんの『ロシアの貴公子』の方が、ずっと素敵じゃないですか」
表彰台でハグを交わしながら、ユーリと礼之は小声で囁き合う。
セレモニーを終えた後、ファンから渡された国旗でリンクを周った2人は、やがて互いのそれを交換して記念写真を撮った。
「僕、プリセツキーさんとこれからもっと真剣勝負がしたいです」
「ああ。だから、お前も絶対勝ち上がってこい。次は日本大会だろ?ひと足先に待ってっから」
前回参戦したフランス大会で台乗りしていたユーリは、今回の優勝でファイナル進出を決めていた。
「有難うございます。だけど、今回の日本大会はとてつもなく強大なモンスターのような方がいらっしゃるので、容易ではなさそうです」
「……あいつか。リビングレジェンド亡き後、ゾンビのようにしぶとくスケート界に居座り続けてる『豚野郎』が」
「やだなあ♪それだとまるで俺、死んでるみたいじゃない」
「ユリオの言ってるのはともかく、僕、あのあだ名嫌なんだけど」
「ええやないか。それだけ勇利が、世界中から恐れられてるいう事や」
リンクから上がったユーリが礼之に吐き捨てるように返していると、何処からともなく複数の人影が、彼らの前に現れた。
