第10章 【最終章】約束
「前方、奇行種一体接近!!」
調査兵団の部隊は平地を馬で駆けていた。
一昼夜に渡る壁外調査を終え、トロスト区の外門へと向かう途中の出来事。
何体もの巨人に遭遇し、兵士たちは疲労困憊。
けれども迫り来る奇行種と戦闘しなくては、帰還することはできない。
「くっ……!俺たちが行きます!!」
巨人に一番近い距離を走行していた二人の若い兵士が、手綱を強く握った。
馬の速度を上げ、一人が巨人の気を引くために間合いギリギリへと近づく。
右往左往していた巨人はその兵士の姿を捉え、獲物を掴むために腕を伸ばした。
「今だ!殺れ!!」
囮になった兵士が叫ぶ。
もう一人は巨人の背中にアンカーを打ち付け、うなじ目掛けて立体機動で飛び上がった。
あとは打ち付けたアンカーを巻き取り、目前のうなじを削ぐだけ。
ガスを吹かせて勢いをつける。
アンカーを抜き、両手の刃を振り上げたその時。
「…っ!?」
回収しきれずにいたワイヤーを、巨人に握り込まれてしまった。
至近距離に映るのは、大きな濁った瞳。
「ああっ……!!」
ワイヤーごと体が引き寄せられ、兵士の体は巨人の手の中に落ちていく。
ギリギリと音を立てる体幹。
喰われる前に圧死してしまいそうだ。
「うわあぁああっ…!!助けてくれえぇええ!!」
大きく開かれた口からは涎が滴り落ちた。
岩のように大きな歯と赤黒い舌に呑まれそうになり、兵士の顔が恐怖に歪む。
しかし最期を覚悟したものの、巨人との距離は一向に縮まりはしない。
何が起きたのかと、身動きも取れぬまま巨人を凝視していると、その巨体は膝から崩れ落ちていく。