第9章 野花咲く太陽の下
無言のまま時間は過ぎた。
ぐったりとリヴァイの背中に体を預けていたビアンカは、突如リヴァイが立ち止まったことに気づく。
少しだけ顔を上げてみると、リヴァイの肩越しに白い野花が咲いているのが見えた。
洞窟のような上空からは、光が溢れている。
その光の中から降り立った一羽の小鳥が、小さな足で野花の中を歩いていた。
「ビアンカ。着いた」
「………ここ……?」
「ああ」
リヴァイは先程までと同じように、ゆっくりと進む。
見上げる先は、光のこぼれ射す場所。
少しだけ顔を傾け、目を細める。
「よかった…。いい天気だ」
リヴァイの視線の先にあるもの。
そこには―――
「!?」
あまりの眩しさに、思わず目を逸らした。
リヴァイはその場にビアンカを下ろして座らせると、自分の手でビアンカの額に影を作り、小さく笑う。
「もう一度、ゆっくり見上げてみろ」
「うん…」
ビアンカは言われたように、ゆっくりと顔を上げた。
思わずギュッと瞼に力を入れ、薄目を開き、それを瞳に映す。
「………………あれが………太陽………?」
「ああ」
「本当に……私、太陽を見てるの……?」
「ああ」
「すご……、い……」
こんなに目を開けていられないほど眩しいものなど、見たことがない。
最初で最後の陽の光。
じっとこの目に焼き付けたくても、長いこと見ていられない。
眩しくて、白くて、暖かい。
冬を越え、待ちに待った春。
二人の周り一帯は、太陽の恵みで命が芽吹いていた。
茂る緑の中に、白い野花と飛び交う鳥たち。
こんなに温かな光景を見たのは初めてだ。