第9章 野花咲く太陽の下
「歩けるか?」
「うん…」
ビアンカはリヴァイに支えられながら、よたよたと覚束ない足取りで上着を羽織り、身なりを整えた。
長く伸びたパサつく髪を、リヴァイが結わえてやる。
こうして起きているだけでも息遣いが辛そうだ。
昨夜医師に施された解熱剤も薬効が切れたのか、ビアンカの体は熱かった。
「ビアンカ…」
「お願い、リヴァイ。止めろなんて言わないで」
リヴァイの心中を察してビアンカが首を振る。
懇願するビアンカの瞳に、迷いはなかった。
「…わかった。行こう」
「うん…」
子どものように軽くなってしまったビアンカを背負うと、ゆっくり朝の街へと歩き出す。
行き交う人々が二人に目を向けるが、リヴァイは気にも留めなかった。
ただ一歩ずつゆっくりと、なるべくビアンカの負担にならないように…。
背中から伝わるビアンカの熱に、顔をしかめる。
間違いなく、これが最後のチャンス。
どうか地上が晴れているようにと願う。
「リヴァイ…」
「何だ?」
「リヴァイがいなかったら、私は一人きりであの部屋で死んでいくしかなかった…」
「………」
「リヴァイがいてくれて、よかった…」
「…喋ると辛くなる。着くまで寝てろ」
「うん……」
そんな遺言のようなことを聞きたくはない。
けれども別れは迫っている。
こうして一歩足を踏み出すのと同じように、ゆっくりと、確実に。