第9章 野花咲く太陽の下
「連れて行ってくれる?」
「………」
「私の最後のお願い…。叶えて、リヴァイ。
死ぬ前に、太陽が見たい……」
「……わかった」
ビアンカは自分の死が近いことを、とうに悟っていた。
告げることを迷っていたリヴァイの思いの深さに、胸が震える。
「沢山悩ませちゃったね…。ごめんね、リヴァイ」
「もっと早く言えばよかったな……」
辛そうにそう言うリヴァイの顔は、まるで子どものようだ。
ビアンカはベッドに腕を付いて身を起こし、リヴァイに手を伸ばした。
リヴァイもまた、儚く消えてしまいそうな彼女を捕まえ、抱き締める。
力を入れたら折れてしまいそうだ。
元々細身だった体は更に肉が落ち、骨張っている。
この一年、日を追うごとに小さく軽くなっていくビアンカに、何度母親の姿を重ねたかわからない。
母の死―――
あの頃を最後に、泣くことなどなかった。
しかし今のリヴァイは、気を張っていなくては脆く崩れ落ちてしまいそうだ。
「リヴァイ……悲しまないで。リヴァイの笑顔が好きだって言ったでしょう?」
「……無茶言うな。可笑しくもねぇのに笑えるか」
「そう?私は笑えるわよ。リヴァイと一緒に、夢を叶えられるんだから……」
この目で見る太陽は、どんなに明るいのだろう。
直に注がれる光は、熱くはないのだろうか。
夢が叶ったら、もう逝かなくてはならないのだろうか―――。
リヴァイと別れるのは寂しい。
真っ直ぐに愛してくれたリヴァイ。
愛することを許してくれたリヴァイ。
一緒にいたい……
本当は幾年先までも、ずっと……
けれども、残念ながらそれは叶わない。
ならば、このまま自分の部屋の中で息耐えるのだけは嫌だ。
死ぬ前に一度だけでいい。
地下街で生きてきたことを忘れたい。
地上の人々が当たり前のように知る太陽の光を浴びて、人間らしく死にゆきたいのだ。
二人は夜明けを待った。
必ず明けるはずの闇が、今夜の二人には酷く長く感じられた。