第9章 野花咲く太陽の下
少しだけ水を口に含み、ぐったりとまた横になる。
ビアンカの唇からは、弱々しい声がこぼれた。
「最近よく夢を見るの」
「…どんな?」
「地上へ行こうとする夢。上へ続く階段に足を掛けて、いざ空を見上げようとすると……そこで夢から覚めちゃうの」
「………」
「酷いでしょう?夢の中ですら、太陽も空も見られないなんて……」
僅かに口元を緩めて、自嘲気味に笑う。
ふうっと大きく息を吐いたビアンカを眺めながら、それを口にしようかどうか迷う。
まだ体力のあった頃ならば、迷うことはなかっただろう。
しかし今のビアンカを目の当たりにしたら、そんなことを告げる勇気などない。
「夢でもいいのに。もしリヴァイと太陽を見られたらね、二人で並んで散歩するの……」
「……」
リヴァイは気づく。
ビアンカの思いの強さに。
地下で生まれ、生き、死にゆこうとしているビアンカ。
太陽を見たいという、贅沢でも現実離れでもない、健気な夢。
それは、決して叶えられない夢ではない。
「ビアンカ」
「うん?」
「連れて行ってやる」
「どこに?」
「太陽の下だ」
「え……?」
ビアンカは言葉を失くし、リヴァイを見つめた。
その瞳は真剣そのもの。
しばらくの沈黙の後、呆然としつつもようやく声を出すビアンカ。
「太陽の…、下…?」
「ああ。ここからだいぶ離れた場所に、太陽が覗く場所がある。ガキの頃見つけたんだ。
……黙ってて悪かった」
抱えて連れて行くことはできる。
けれどもそれは、ビアンカの命を縮める行為。
一日でも長く生きて欲しいのがリヴァイの願い。
では、ビアンカの願いは?
そう考えた所で、我に返る。
夢にまで見るほどそれを願うビアンカ。
叶えられるのは、自分だけ。
ビアンカの夢を……最後の望みを、叶えてやりたい。