第9章 野花咲く太陽の下
ビアンカの容態は悪くなる一方だった。
遂には仕事もできなくなり、その日も暖炉で暖めた部屋の中、ベッドに横たわったまま薄暗い窓の外を眺めていた。
「外…、寒そうね」
「ああ。今日は特に冷えるな」
洗い物を終えたリヴァイがビアンカのそばへやってくる。
リヴァイの方へは目もくれず、朝なのか昼なのかもわからない景色を眺め続けるビアンカ。
リヴァイも同じように、窓の外に目を向けた。
「リヴァイ…」
「ん?」
ビアンカはようやくリヴァイと顔を見合せる。
「今日、誕生日ね」
「ああ…、そう言えば…」
日に日に弱っていくビアンカのことばかりが気がかりで、自分の誕生日のことなどすっかり忘れていた。
「もって一年」―――。
春に告げられた、ビアンカの余命。
あと僅かしか時間がない。
残酷なその事実は、リヴァイを確実に追い詰めていた。
そんなリヴァイの心中を余所に、ビアンカは柔らかく微笑む。
「誕生日おめでとう、リヴァイ」
「ああ。ありがとう」
「ねぇ、そこの箱取って」
ビアンカの視線の先にあるのは、ベッド脇にある腰の高さほどの棚。
言われたとおり、その上に置かれた木製の小箱を手に取り、彼女へと渡す。
受け取ったビアンカはそれを開くなり、声を落とした。
「何かプレゼントしたいのに……」
その箱の中には、ビアンカが普段使っていた小物が仕舞われていた。
硝子細工のようにキラキラとした髪留め。
花を型どったペンダント。
シルバーの指輪。
髪留めとペンダントは女性用の物だし、指輪もリヴァイの指に入る大きさではない。
何かプレゼントしたくても、買いに行く体力すらない。
「プレゼントなんていらねぇよ」
ポツリとそう言うリヴァイの声を聞きながら、ビアンカはペンダントを指先で摘み上げた。