第9章 野花咲く太陽の下
「リヴァイ…ありがとう。でもね、私は今のままで充分……」
「……」
「私を不幸だと思う?こうしてリヴァイがそばにいてくれるのに?
夫婦でなくてもいい。ここにいるのは、ただのビアンカと、ただのリヴァイ。
形じゃないの。二人でいられることが、私の幸せ」
ビアンカは薄っすらと開いた瞳でリヴァイを見上げると、ゆっくりゆっくりそう言った。
彼女から返される言葉を薄々わかっていたかのように、リヴァイは小さくため息をつく。
「一度言ったら聞かねぇよな…。ビアンカは」
「……ごめん」
「謝るな。余計に虚しくなる」
「ふふっ…。うん。じゃあ、謝らない」
二人は顔を見合わせた。
もう何も物言わぬまま、ビアンカの骨張った手をふわりと握る。
手の平から伝わる温もりが心地よく、ビアンカの意識は次第に睡魔に引き寄せられていく。
その寝顔をひととき見つめた後、リヴァイは静かに一度だけ、ビアンカの唇に口づけた。
その夜、ビアンカは夢を見た。
現れたのは、出会った頃の痩せこけたリヴァイだ。
甲斐甲斐しく世話をするビアンカに向かって、リヴァイはこう言う。
『いつか俺が、ビアンカの夢を叶えるから。待ってて…』
『夢…?リヴァイ、私の夢がわかるの?』
『俺が必ず、ビアンカを連れて行く』
『連れて行くって……どこに?』
ビアンカの問いには答えぬまま、それきり黙ってしまうリヴァイ。
風貌は今のリヴァイとは似ても似つかない。
けれど意志の強そうなその眼差しだけは、今も昔も変わってはいなかった。